宝もの
入ってゆくと、シアワセになれる本。
こういうものを持っていると、人生、なんとかやってゆける(気がする)。
そういう本は、特等席においておきます。
だって、現実は、なかなかシンドイものがありますから。
ココロ折れるときもある。
ブクブクと、沈んでしまうときもある。
そんなとき、本の中のヒトに会いにゆきたくなる。
ヒトは、ときにワンコや自然であったりもしますけど。
それって、現実逃避っていうんじゃないの?
そうかもしれません。
なら、現実逃避って、必要なんじゃないでしょいうか。
だって、現実が、おかしすぎるんですから。
そんな斜にかまえた気持ちも、もってます。
本書の主人公は、真崎ひかるさんです。
たぶん、年は85歳くらい。
ただ、もう年なんて、60を過ぎたら忘れましょう(個人的意見)。
「すっかり、記憶力が落ちちゃって」」
そう、とぼけて、おっホッホッホと、水戸黄門笑いをしていりゃ、いいんです。
ボケをうまくかわす。
一方で、高齢者優遇制度はちゃっかり利用する。
そういう生き方をしてゆきたい。
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ひかりさん、登場
真崎ひかりさんが、やってくる。
といって、歓迎ムードはありません。
ひかりさんは、長男と、いまより少し離れた場所で、くらしていました。
ちょっと事情のあった長男の面倒をみる、という理由がありました。
その長男が、事故死してしまったのです。
子どもは、もうひとり、次男がいます。
次男は、1人にしておいてよいものか、迷います。
もう年だし、同居を口にするべきか。
心配が先にたって、呼びよせることにしました。
次男の家には、妻と浪人中の長男、ちょっと荒れてる中3の長女がいます。
けっして広くはない家です。
そこを一部屋あけて、むかい入れる。
とうぜん、誰もが心から歓迎する、という雰囲気はうまれません。
とくに、ヨメの立場からすれば。
その点は、ひかりさんも、わかっているようです。
できるだけ、次男一家には、迷惑はかけたくない。
同居であっても、じぶんでできることは、してゆく。
たとえば、昼食は七輪でゴハンをたいて、ひとりですます。
七輪がでてきました。
IHではありません。
衣装も、モンペズボンに、割烹着です。
足もとは、地下たび。
正真正銘、というより、ひと時代まえの、おばあちゃん。
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案内役
おばあちゃんの案内役として、孫の光一があてられました。自宅浪人中、ということで、仕方がありません。
次男のヨメは、パートにでています。
といっても、ひかりさん、当地はお馴染みです。
もともと、こちらに住んでいましたから。
長男との同居のために、ここを離れていただけです。
ひかりさんは、特技がありました。
字がうまい。
これを生かして、むかしは近所の子をあつめて、習字を教えていました。
習字教室とか、ソロバン教室とかが、どこにもあった時代です。
ただ、かわったところもあったようです。
習いたくても、お金がなくて、来られない子がいる。
それを知ると、その子には、手伝いをたのむ口実で、教室に来てもらう。
家があれて、乱暴ばかりはたらいている子がいる。
習字なんて、チャンチャラおかしい。
その子には、夕食のオニギリでつって、教室にまねき入れる。
まだ「貧乏」と「勤勉さ」が同居していた時代のはなしです。
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散歩のおつきあい
孫の光一は、家で受験勉強中。
なので、ときに、ちょいと頼まれごとをされます。
たとえば、散歩のおつきあい。
たとえば、買い物の案内。
むかし住んでいたところ、といっても、町はどんどん変化しています。
まようことも、でてきます。
すると、光一には、わからないことがでてきます。
ひかりばあちゃんを知るひとが、あらわれる。
すると、みんな一様に、出会ったひとの表情が輝きはじめるんです。
しかも「先生、ご無沙汰していました」って。
先生って、ひかりばあちゃんが、先生?
そりゃ、むかし習字を教えていた、と聞いていますが。
いかつい武道場当主が、そんなあいさつをしてくる。
ホームセンターの店長が。
大きな会社の重役さんが。
元気のいい、農家のおじさんが。
なんなんだ、この人脈。
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つながり
ひかりばあちゃんは、ぬか漬けが得意。
とくに、イワシのぬか味噌漬けは、なんともおいしい。
そして、ときどき自分の部屋で、立ちんぼをしている。
立禅というのだそうだ。
乱暴者だった昔の教え子から、ならったものだという。
それ以外は、ふつうのおばーさん。
たしかに、小さい子に、習字を教えていたかもしれないけれど。
小さな子は、やがて習字教室から離れてゆきます。
同時に、少しずつ社会に触れてゆく。
すると、そこには大波小波が打ち寄せてくる。
そのとき、ふと思い出してくる。
あるいは、気づいてくる。
ひかる先生は、自分を特別にお世話してくれていたと。
自分が、一番世話になった。
自分が、一番かわいがられた。
先生と口にするオトナのだれもが、そんなことを言いだす。
それを支えに、生きてこられた。
それを支えに、生きている。
いったい、ひかるさんって、どんなおばあちゃんなんでしょうか。
本当に、魔女なのかも。
そんな出逢いをもっていられるひとは、しあわせです。
自分には、そういうひとはなかった。
いえ、この本を読むと、出会えます。
そんな心地よさにヒタヒタと浸れる作品です。
それが、好評を呼んだのでしょう。
やがて、第二作が出て、第三作も出ています。
もっと、シリーズ化してもらえたら、うれしい。
休みの日、すてきな時間をすごせる一冊です。
そして、いつの間にか元気がムクムク。
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