ライオンのおやつ、小川糸著。人生の宝物

うまくゆかない

 

人生は、往々にして、思わぬことにぶつかります。
でも、これはありすぎだろ。

まだ物心もつかないころ、両親を不慮の災害でなくす。

それでも、けなげに生きて、20代のアパートくらし。
ここで、ガンの診断

つらい手術も、化学療法にもたえる。
たべたいパンをガマンして、医療費と生活費のために、スーパーの安いパンですます。
ウイッグも、そろえる。

しかし、最後は余命宣告のステージIV。
「もう、できることはありません」

海野雫
通称、しーちゃん、33歳の冬。

アパートをたたむ。
手元には、スーツケース2つの荷物。
はじめておとずれた、瀬戸内海にうかぶレモン島

そこにたつ「ライオンの家
この名前の由来は、のちに説明されます。

病院ではない。
ホスピスみたいだけれど、ちょっとイメージがちがう。
地中海をのぞむ小さな港町の、ひっそりとしたリゾート宿、といったほうが似合うかも。

むかえてくれるのは、メイド服マドンナ
ここで、しーちゃん、最後のときがはじまる。

 



 

 

待っていてくれたもの

 

身も心も、ズタズタ。

すべてを整理しておとずれた島。
育ての親にもないしょにしてやってきた島。

そこで、少しずつ状況がかわりはじめる。

レモンの木にかこまれ、思いきりすえる空気。
フワフワのベッド
朝は、とびきりおいしい、毎日かわる熱っつあつのオカユ
そう、病院の、さめてノリみたいになったものとは、まったくちがう。
そして、自由な時間。

マドンナはいう。
「よく眠り、よく笑い、心と体を温かくすることが、幸せに生きることに直結します」

そして、大きな白い犬まで、部屋に入ってくる。
六花
いままで、飼いたかったけど、一度も飼えなかった犬。

いろんなことをガマンしてきた闘病生活。
もう、ガマンはいい。
つつんでくれるものがある生活。

 



 

六花との散歩

 

まだ、ゆっくりとなら、歩ける。

天気のよい温暖な冬日、犬の六花との散歩
人生、の、犬の散歩。

犬に引かれてのぼった小さな丘。
ここからながめる瀬戸内海は、どこを見てもかがやいている。

「こんにちわ」
丘で、ぶどう畑の世話をしていた青年と出会う。
タヒチ君
5年前からレモン島に移住して、ブドウを育て、ワイン作りにはげんでいる。

しーちゃんにガンがみつかり、ガンと戦ってきた時間と同じ歳月。

タヒチ君はやさしい。
タヒチ君のつくったワインもいただく。
やがては、ライオンの家で、それはモルヒネワインに変わってゆくのだけれど。

 

 



 

日曜のおやつの時間

 

日曜午後は、特別な時間。
おやつの間でひらかれる、特別な、おやつの時間

ゲストの思い出のおやつを作って、みんなでたべる会。
思い出の披露。
そうそう、ライオンの家では、くらすひとを「ゲスト」とよぶならわし。

最初の経験は、タケオさんのリクエストの「豆の花
トウファという、台湾のおやつ。
台湾で生まれ、戦後は日本にもどって、苦労の連続だった人生。

そんな中で、母がつくってくれた豆の花。
父親が河原の土手を借りてつくった落花生をつかって。

願いのかなったタケオさんを、ちらりと見てみる。
豆花をみつめたまま、たべようとしない。
まるで無声映画を見るような目で、みつめているだけ。

そこに、そのときのお母さんやお父さん、兄弟姉妹と出会っているのかもしれない。

やがて、しーちゃんの病状がすすむと、たべたくてもたべられない苦痛もあったのだな、というのを知るようになるのだけれど。

たべる幸せ。
日常の、ささやかなことのなかにある、本当の幸せ。
おやつの時間。

 

 



 

 

帰ってゆくところ

 

しーちゃんの静かな時間は、夢のようにすぎてしまう。

だんだんと、起きることもつらくなってゆく。
痛みへの治療で、ウトウトする時間も、ふえてくる。

これから、どんな世界がまっているのか。
まだ、33年間だよ。
もっと、世界のいろんなところをみて回りたかったよ。

動けなくなったしーちゃんに、会いにくるひとがいる。

あれ、お母さん?
25歳のお母さん。
なくなった年のままのお母さん。
自分よりも若いお母さん。

六花の、もとの飼い主もあらわれる。
夏子といいます、夏と呼んで。

なくなったら、どこにゆくのか。
無になる、というひともいる。
そうじゃない、先にいったひとのところへ、ゆくだけかもしれない。
そこには、待っていてくれるひとがいる。

ライオンの家では、なくなるとエントランスのろうそくに24時間、明かりが灯される。
ここから出て、荼毘にふされる。
病院のように、ひっそりと裏口から搬出されるのではない。
ろうそくは、消える瞬間に、いちばん美しくかがやく。

しーちゃんの人生も、そうなってゆくか。
最後まで、読んでください。

マラソンは、つらいこともあるけれど、それだけじゃない。
そんな陳腐な比較をもちだすことは、不要ですね。
とっても、心やすらぐ物語です。

ただし、花粉症でなくても、鼻水がジトーとなってしまいます。

 

そういえば、こんなことを書いていた方がおられました。
「最近は、病気や治療にかんして、くわしく説明してくれるようになったよ。
でも病気になっても、人生を楽しく送れる生き方を教えてくれるひとは、なかなかいない」
ズキーーン。

 

 



 

 
 

たーさん
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