生涯ランニング

姫タン
生涯ランニングって、いつまで走っていたいの?

たーさん
理想をいえば、自分のお葬式の1週間前まで。

姫タン
大きくでたわね。
そんなこと可能なの?

たーさん
走る姿勢、の問題かな。

姫タン
どんな姿勢だと、生涯、走っていられるの?

たーさん
走りは、大きく2つの方向性に大別できると思うんですよ。

姫タン
理屈は、ホドホドにしてね。

たーさん
ひとつは、記録としての走り。
順位とか、タイムとか、を目指しての走りです。

姫タン
ふつうは、それが走りのモチベーションになるわよね。

たーさん
モチベーションは大事ですが、モチベーションが途切れると、引退という事態もありえます。

姫タン
引退かあ。ちょっとさみしいコトバ。

たーさん
もうひとつは、自分との対話という走り。
走ることで、自分と会話し、自分を見つめられるんです。

姫タン
こっちなら、引退がないってわけ?

たーさん
はい、そうです。
自分の変化に応じた走りを楽しむ。

姫タン
でも、さすがに年をとったら、走るのは無理なんじゃないの。

たーさん
必ずしも「強いもの」が生き残れるわけじゃないんです、自然界は。

姫タン
強くなくても、生きてゆけるの?

たーさん
強さよりも、自分の「変化」に適応できるワザが大切なんじゃないかと。

姫タン
…………。

 

 

走ることは、苦しく、つらい。
走ると、カラダが痛くなる。
走ってみたけど、つづかない。

そんなふうに、走りをとらえる方がいらっしゃいます。

それは、走り方を忘れてしまったからじゃないでしょうか。
ほら、幼かったころ、遊びで駆けまわっていたとき、同じことを感じていましたか?
キャッキャと、笑って、走っていたんじゃないですか。
というより、楽しさが走りの原動力になっていませんでしたか。

全力疾走すれば、だれだって、息がきれます。
息がきれて、なお走る、というのは苦行です。
苦行とランニングを、同列にあつかわないでください。

自分の走りなら、息が苦しくなることは、ありません。
息が苦しかったら、自分の走りから離れている、と思ってください。

走ることで、身も心も、大きな「刺激」を受けます。
大きな刺激は、自分自身に「変化」を投げかけます。
それを「受けとめる」行為が、走りの醍醐味であり、楽しさです。

ですから、走ることで、自分自身が、変わってゆけるんです。

すると、走りだけの問題じゃないことに気がつきます。
ひとは、だれも年をかさねてゆきます。

生きてゆく、というのは、そういった「変化」とともにある、ということです。
どう自分の変化とつきあってゆけるか
変化に適応するコツを、走ることは教えてくれます。

ですから、走ること生きること

 

 

姫タン
ヒメは走るのが苦手なので、最初は歩くことでもいいの?

たーさん
もちろんです。移動の基本は、歩きですもん。

姫タン
それでも、やがては走りがいいの?

たーさん
いいというより、歩きより大きな刺激を味わえる走りの快感をぜひ、味わってもらいたいです。

姫タン
大きな刺激は、故障にむすびつきません?

たーさん
自分と対話しながらなら、心配はいりません。

姫タン
ほかにもいろんなスポーツがあるけど、なんで走りなの?

たーさん
スポーツって身構えなくても、だれも自然に走っていませんでしたか?

姫タン
そいいわれれば、そんな気もするけど。

たーさん
スポーツというより、生きる基礎に通じるくらしの行為なんですよ。

姫タン
だから、走りに定年はないと。

たーさん
年をとったから、走れなくなるわけじゃありません。
走らなくなるから、年をとるんです。

姫タン
…………。

 

 

くらしぶりや、リハビリテーションの評価のために「日常生活動作ADL」という概念があります。
くらしの基本となる行為で、次の5つが大御所です。

食事
排泄(オシッコ、ウンチ)
整容(着がえ、洗顔、歯みがきなど)
入浴
移動

これらが自立か、一部介助か、全介助か、というような見方で、くらしぶりをみようというものです。
実際に、いろんな場面で活用されています。
介護の評価、障害の認定場面などでも。

ふつうは、この5つの「おのおの」の総合評価で判断してゆきます。
でも、気づいてください。
5つの中で、1つだけ、別格者がいるんです。

それは、「移動する力」です。
ゴハンをたべるのも、ウンチをするのも、歯みがきするのも、おフロに入るのも、その場にたどりつけられるかどうか、でくらしぶりがガラリと変わったものになってしまうんです。

逆に、移動能力さえ上がれば、すべてが向上しうる。

つまり、生きる基盤は移動能力である、ということです。
それが、食事、排泄、整容、入浴などの行為に、すべて関わってくる。
ですから、移動能力に着目。
移動能力が、くらしを大きく左右させるんです。

食事や排泄や整容や入浴は、生涯にわたる行為です。
それを支える移動能力は、もちろん、生涯にわたってありたい。

移動能力をダイナミックに高めてゆくもの、それが『飛脚走りです。
いえ、失礼しました。
そんな、大それたことは申しません。
ランニングでいいんです。

だから、生涯ランニング

 

 

姫タン
ランニングは、趣味だけじゃなく、生きる基礎にもなるということね。

たーさん
はい、ちょっと気はずかしいですが、そう思ってもらえるとウレシい。

姫タン
ヒメも、走ってみたくなってきたわ。
そしてヒメだけじゃなく、母上も誘ってみようかしら。

たーさん
ぜひ、走りを全世代の楽しみに。

姫タン
それなら、ドーンとPRしたらどうなの。

たーさん
うーん、それが苦手なもので。

姫タン
でも、ひとこと。

たーさん
吉野源三郎さんの『君たちは、どう生きるか』という本がベストセラーになっていますね。

姫タン
ヒメも、マンガ版で読んで、感動したわ。

たーさん
自分の考えをもって生きてゆこうよ、という熱いメッセージ本です。

姫タン
そうよね。

たーさん
あの本が最初に世にでたのは、昭和12年です。
日中戦争開戦の年で、「お国のために死ぬこと」が美化される時代の幕開けです。

姫タン
そんな時代背景もあったのね。

たーさん
そんな時代に、自分の考えをもとう、と。
勇気ある発言です。

姫タン
時代の流れにあがなえずに、多くの命が失われましたものね。

たーさん
その勇気にあやかってみます。

姫タン
はい。

たーさん
君たちは、どう走るか。

姫タン
…………。