ランニング王国を生きる、マイケル・グローリー著。王者の秘密

ランニング王国、エチオピア

 

エチオピアのマラソンランナー、といって、だれをあげられますか。
ぼくは、アベベ・ビキラさんです。
ローマオリンピックを、ハダシで走って、優勝したランナー。
その次の初代東京オリンピックでは、シューズをはいてですが、二連覇。

いまは、ハイレ・ゲブレセラシェ選手でしょうか。

あるいは、モカさんでしょうか。
それは、コーヒーの名前です。

なぜ、エチオピアには、優秀なランナーがいるのでしょうか。
歴代男子マラソン記録ベスト5のうち、エチオピア人が3名をしめているそうです。

アフリカ伝説、というのがあります。
小さいころは、ハダシで育つ。
片道10キロの山道を、毎日歩いて学校まで通う。
貧しさが、ハングリー精神をはぐくむ。

すべて、思いちがいのようです。
イギリス人の文化人類学者マイケル・グローリーさんは、エチオピアのランナー仲間に加わり、1年3ヶ月をともにしました。
本書が、そのときの記録です。

 



 

 

わたしとのちがい

 

ここで、いきなり「わたしとのちがい」を語ってどうする。
ちがって、当然でしょ。
なにせ、相手はエチオピアのトップランナーたちの生活です。

フルマラソンを、2時間10分以内に走るようなひとたちです。
1から10まで、すべてがちがって、当たりまえ。

でも、まあ、そんなに深く考えずに、おつきあいください。

まず、毎日の生活です。
ここからして、おおいにちがっています。

ここでのランナーの多くは、1日を走ることに専念できます。
ここからからして、わたくしとちがっています。
具体的な収入や、生活システムは、本書にゆずります。

一番関心が向いたのは、走り方です。
こういう走り方をしているのか。
そのうちの、特別なちがいや、感動するちがいをあげておきます。
たぶん、日本で走ってらっしゃるランナーさんと、かなりちがっているはず。

 



 

坂道を走る

 

彼ら(以下、彼女らもふくめます)の走るコースの多くは、坂道です。
つねに、のぼっているか、くだっている。
大地が、傾いているんですね。
もちろん、平らなところもありますが、基本は坂道。

つまり、いつもアップダウンを感じながら、走っています。
傾斜をなだらかに走れるようにしてゆくこと。
これが、関節の負担をへらす走り方につながります。
これが、ケガを予防する走り方になってゆきます。

 

土の上を走る

 

走る場所は、徹底して土の上です。
アスファルトの上は、レースのときと、その前だけ。
カラダを痛めない秘訣だそうです。

しかし、土の上は、デコボコです。
走りにくい。
一歩一歩の足のウラへの感覚が、すべてちがってきます。
そのちがいに合わせられないと、走れません。

わたしたちは、目でコースを把握して、走っています。
一方、土の上では、それ以上に、足ウラの感覚が必要になります。
不用意な一歩は、ケガのもと。

おのずから、足ウラ感覚が、やしなわれてゆきます。

 

林の中を、ジグザグに走る

 

林のイメージとして、斜面に広がる三保の松原でしょうか。
傾斜面に、木々が、どこまでもつづいている林。

その木のあいだを、ジグザグに走ってゆく。
右に曲がり、左に曲がり、また右に折れ、左に急展開。

人間のスイッチバック走行です。
まっすぐには、進まない。

ランニングは、前にすすむもの、と思っていましたので、これにはビックリ。

ああ、これはすごい走りだ。
ひとことでいえば、「総合走り」。
走りを支えるすべての要素が、要求されていませんか。
バランスをとる、というような安易な問題ではありません。

カラダの芯が、有機的につながっていないと、できません。
これこそ、「実践的な走り」の基礎中の基礎じゃないでしょうか。

ですから、ランナーだけじゃ、もったいない走り方です。
サッカーも、バスケも、テニスも、卓球も、すべての動きの基礎。

ここに、エチオピアランナーの走りのしなやかさの秘訣をみた思いです。
くわえて、したたかさを。
ワクワク、というより、ゾクゾクしました。

そうですね、走行距離じゃないんだ。

さっそく、走れる林を見つけたいな。

 



 

それから、上級編

 

彼らが走るのは、ふつうに3千メートル級の土地です。
そこで、くらして走る。
もっと、あがるときもある。
ま、これは、日本では無理ですね。

基本、集団で走る。
先頭がペースメーカーとなって、うしろは、その歩調にあわせてゆく。
リズムの作りかたの練習です。
ひとりで走ってばかりだと、レースでの駆け引きもできなくなる。

走る以外は、基本、ゴロゴロ。
走っては、休む。
また走っては、休む。
筋トレのはなしは出てこない。

 



 

現場だからこそ

 

この著者も、エチオピアのランナーにまじって生活します。
文化人類学者の基本でしょうか。

ただし、走ってついてゆくのは、正直きつい。
といっても、フルマラソンを2時間20分ほどで走るヒトです。

そのくらいのレベルをもった著者の視点で書かれた、リアルなエチオピア報告です。
新しい、エチオピア視点、アフリカ視点で、とっても新鮮です。

彼らは、ハダシで育ったわけではありません。
山道をいくつもこえて、学校へかよったわけではありません。
そもそも、クツがなければ、大会にも出られません。

わたくしの、これまでのアフリカランナー観も、ガラリとかえてくれました。
走りに関する認識を、変えてくれる刺激本です。

ボクはまず、ジグザグ走法を、とり入れたくなりました。
えっ、もうやってるでしょうって?
アレはただ、よろめいているだけです。

 



 

たーさん
ジグザクと 走る先には 栄光が

 

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