自然派アタマにドカンと一発
内館牧子『すぐ死ぬんだから』(講談社)には、ガツンとやられました。
そうか。
わたしが、考えちがいをしていました。
もう、拍手パチパチとしかいいようがありません。脱帽。
物語の主人公は、忍ハナ(おし・はな)78歳です。
高校の「大台間近の同窓会」に出席するため、街を歩いているところから話はスタートします。
とつぜん雑誌記者に声をかけられ、シニア雑誌の「こんなステキな人、いるんです」の人気ページにとり上げさせてもらいたいむねを告げられます。
それほど、サッソウとしたパリパリ感がただよっています。
そのあとに臨んだ同窓会の覇気のなさ。
そこには、老いをしりぞける何者をも存在しません。
楽なだけがとりえの服装。
そろいもそろって、くたびれたリュックに、安っぽい帽子姿の面々。
手をかけないことを「ナチュラル」とほざくヤカラ。
さいごの捨て台詞は「すぐ死ぬんだから」
ハナは、連中をバッサリと切りすてます。
人生、波乱万丈
家にかえれば、気のあうひとつ上の夫とのマンションくらし。
近くで続けた酒屋を長男にゆずり、今は悠々自適な日々を送っています。
夫は、おりがみが趣味で、今も次の展示会にかけている情熱家。
お出かけはいつもいっしょ。食や服装の趣味もいっしょ。
人生は、こうでなきゃ。
しかし、人生は、こうにはすすみません。
とつぜん夫が倒れると、あれよあれよとお別れのコトバもかわせないまま、ひとりくらしになってゆきます。
死後、夫の遺言状があきらかになり、そこから思いもかけない方向へ事態が展開してゆきます。
カタブツ一方と信じていた夫の、うらの顔、うらの生活。
これ以上を語ってしまうのは控えますが、フツウのヒトの、フツウにはなれないくらしの中で、しかし爽快な忍ハナ発言集。
きっと元気がもらえますので、いくつかを紹介させていただきます。
さけぶハナ
・ぼやいてどうなる。夏は暑いんだ、昔から。魚はおよぐし、赤ん坊は泣くし、走りゃ息が上がるんだ。昔っからそういうものなんだ。ぼやくな。
・あんた達みたいなのは、ナチュラルなんて言わなくて、無精って言うんだよ。
・「人は中身よ」と言う女にろくな者はいない。さほどの中身もない女が、これを免罪符にしている。
・老人が一番避けるべきものは「自然」だ。「ナチュラル」だ。それにあらがってどう生きるかが、老人の気概というものだろう。
・「老衰」のジジババは、自分がそうだと気づかない。「衰退」のジジババは意識している。違うのだ。
・「何とでもなる」という思いは、若者と老人のものだ。若者は「切り拓くから何とでもなる」と思い、老人は「すぐ死ぬんだから、何とでもなる」と思う。
・運というものは、先のない人間にもやって来る。棄(な)げない人間には、必ずやってくる。
・六十を過ぎたら、人は年相応に見られてはならない。
・六十を過ぎた人間に、ナチュラルはない。
・偽装を続けて死ねば、その人の真の姿は偽装の姿なのである。
・至るところにいる年相応のバアサンは、要は「偽装」をしていないのだ。
・自分のことを老体だの年寄りだのって言うんじゃないよ。そう口に出すことが、しょぼくれたジイサン顔にするんだから。
・ババくささは、伝染(うつ)る。
・『セルフネグレストに気をつけてやれよ』って。育児放棄じゃないよ。自分を放棄しちゃうことだってさ。人は生きていく意欲がなくなると、そこに行き着くんだって。
・そうなっちゃ困ることは口にするんじゃねえぞ。昔っから日本には『言霊』っていうのがあってよ、口に出すとそうなっちまうんだ。だから、そうなっちゃ困ることは、腹ン中で思っても、絶対に口に出すんじゃねえぞ(これは、ハナの父のコトバ)。
・伸び縮みのする素材や、体を締めつけない服を着るのはバアサンの証拠。楽が一番、という精神に退化している。
・先がないから、すぐ死ぬんだからこそ、「バカバカしい」と思ってはならないのだ。すぐ死ぬんだから偽装を貫き、楽しまなければ損なのだ。
・出会った人も別れた人も、通りすぎた何もかもが、楽しい道草のようだった。ジジババの人生は、ここから始まる。
・最近、めっきり菩薩がかかっているからね、私。
ごめんなさい
わたしもつい「自然に」とか「無理せずに」なんてコトバが口にでるようになっていました。
老子をかじると、さらに信条にまでいってしまいます。
だが、ときには、あらがえ、はむかえ。
歳をとったら「歳を忘れて」なんて脱力していちゃいけなかったんだ。
「年齢を忘れるのは本人じゃなくて、他人に忘れさせなきゃいけないの」です。
うん、うん。
なんだか、力をいただける小説です。
いくつかの「忍ハナ語録」をアタマに入れておくと、マラソンレース後半のきつい場面でひとつの起爆剤になってくれるかも。
あるいは、日々の生き方のココロのサプリメントになってくれるかも。
さあて、ナチュラルからの脱出。
強がれ、強がれ。
自分の道をつくるのは、自分のヤル気です。
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