異世界もの
異世界、といえば、すでに立派なひとつのジャンルを確立しています。
コミックしかり。
アニメしかり。
ラノベしかり。
ある日、とつぜん、この世とはちがう世界へ入りこんでしまった主人公。
まったく未知の生きものとの遭遇。
考えられないシステム。
同様に、いきなり昔の社会に入りこむ、といのもひとつのバリエーションでしょうか。
気がついたら、戦国時代の中にいたとか。
日常に、あきてしまったのでしょうか。
それとも日常のシュールさが、こういう世界を希求しているのでしょうか。
しかし、です。
わたくしの持論。
ホントの異世界は、目の前にもうひろがっている。
ありえない空想の世界を、あえて異世界とつくらなくてもけっこうです。
いまいる世の中が、もうソノマンマ、異世界じゃないですか。
そう思いませんか?
いきなり現実異世界
はるかさん、14歳の春。
こんど中3に進級する、都会の中高一貫校生。
陸上部に所属し、青春を謳歌している真っ最中です。
この学校は、中3より高等部での区域での生活になってゆきます。
学習意識をたかめる、という意味合いがあるのかも。
それは、1年はやく「JK」の気分にもさせてくれるということ。
すまいは、都会の高層マンション。
父と母との、充実した毎日。
そこに突然ふってわいた父の海外赴任話。
不安がもたげたけれど、夢もふくらんでくる。
ゆく先は、アメリカかな、ヨーロッパかな。
あと1年で実現する、本物のJK生活に、未練がなくはない。
けれども、アメリカン・ティーン・ライフだって、悪くはないんじゃないかな。
そして、中3に進学した4月末。
ようやく赴任さきが決まりました。
「8月から、インドだって」
ええっ?
インドの情報を、いっしょうけんめい検索してみる。
世界中の引越し先を空想していたけれど、インドだけは思い浮かばなかった国。
検索からでてくるコトバは、戦慄の数々。
汚い、危ない、やばい。
友だちにも、なかなかいい出せない。
やっとのことで口にすると、相手も、苦笑いと戸まどい。
そして、ついに現実におりたインドの空気。
身にまとわりつく熱風。
エアコンの室外機の前を通ったかのような熱気。
異世界突入
インドのまちは、緑の生命力で、すきまもないくらい。
そのなかを、同じようにスキマもなく動きまわるひと、ひと、ひと。
うすよごれた野良犬の集団。
バイク。
車が交差点で止まったら、窓をたたくやせこけた子どものウデ。
14歳の夏のはじまり。
生きる第一歩。
それは、たべるものの調達からはじまる。
たくさんのひとを養うマーケットの山積みの商品。
インドでは、牛肉はたべない。
魚介類も、なかなか手に入らない。
鶏肉が、大切なタンパク源。
すると、いきなり目の前で、銀色の刀で首を絞められる光景。
生きものが、たべものにかわる必然の光景がそのまま展開する。
いままでの常識が、次々と崩壊してゆく。
インドといったら、ターバンおじさん。
ところが、そんな姿は、どこにも見当たらない。
シーク教徒のひとだけの格好なんだそうだ。
この国のシーク教徒は、2%にみたないのだとか。
肌色、という名前も使えなくなった社会。
だがやがて「ちがい」に敏感になりすぎていたことに気づいてゆく。
「ちがい」は許す、許されないではない。
「ちがい」は、存在そのもなんだ。
常識って?
そういうもの、だと思っていたもの。
それが、いかにあやういものだったか、が目の前にある。
大家さんちで、夕食をおよばれされる。
7時から、といわれる。
遅れていっては失礼。
そこで、最初にパンがでてきたのが9時。
だんだん揃ってきたのが、11時。
学校では、何をしようか。
陸上部はないらしい。
かわりに見つけて、さそわれたのがクロカンクラブ。
インドでも、走れるんだ。
まずは、走れる場所までスタート。
目の前は、猛スピードの車で途切れることのない大通り。
ここを、命がけで横ぎって、金網フェンスで仕切られた緑地帯。
野生動物の天国。
いきなり、集団をつくる野生猿の集団。
「目をあわせなければ、大丈夫だよ」
やぶの中からのぞくジャッカル。
オオカミやコヨーテの仲間。
おそわれないか。
短パンでいってしまい、雑草のトゲでチクチク。
ボランティア体験も
ボランティアの活動にも誘われる。
裕福層の住む地域をかこって、そうじゃない密集地がひろがるインド。
電気も水道もない、いわばライフラインのない空間。
トイレだって、とにかくなさすぎる。
もう、スラム街そのもの。
とうぜん、そこにあるのは大きな貧困と犯罪。
そのなかで、いちばん被害をうけるのは、小さい子だ。
その子たちと、かかわる。
自分を「おねえさん」とよんでくれる子たちとの交流。
そこから、異世界が動いてゆく。
おどろく場所から、なんとかしたい場所へ。
そんな生活に慣れはじめてきた3年目のインド。
ここにも、コロナ感染症の猛威がおそってくる。
死体の山。
とうぜん、父親の仕事もむつかしくなってくる。
帰国の決定。
そしてまた、日本の都会での本当のJK生活がはじまる。
でも、心の中には、インドでの異世界がそのまま残されている。
自分は、異世界をぬけてきた。
でも、今もそこにくらす、同じ人間がいる。
決めつけないで、アリノママを見ること。
そのなかに、とびこんでみること。
何ごとにも通じる、生き方かもしれません。
うーん、と考えさせる良書です。
(この本の収益の一部は、インドの子どもを支援する団体へ寄付されるそうです)
異世界は 目の前にこそ ありにけり
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