店長がバカすぎて 早見和真著

バカが多くてつかれませんか?

 

かつて、桃井かおりアネゴが、テレビCMでこうつぶやこうとしたら、ホンモノのバカがおこって、オジャンになりました。

あー、つかれる

それにしても、なぜこうも「つかれる」んでしょうか。
カラダ、そんなに使っていますか。

たとえば日常。
電気、ガス、水道、ライフラインこまりません。
かつては、お茶1杯飲むのに、水をくんて、火をおこし、といちいち動かねばなりませんでした。

ちょっと出かけるにしても、車やバスや電車があります。
そもそも、出かけなくても、スマホでサクサクと用がすむご時世です。

あー、楽になった
そういっていただきたいのです。
なのに、口に出てくるコトバは「ああ、つかれた

つかれる原因は、何ですか?

堂々のトップをはるのは「人間関係」だそうです。
現代人は、人間関係でつかれる。

なぜなら、バカが多すぎるからです。

 



 

谷原京子 28歳

 

主人公です。
武蔵野書店・吉祥寺本店につとめる契約社員。
つまりは、生計の安定しない書店員
時給998円。

本が好き。
時間があれば、本を読みたい。
とくに、あこがれの書店員である7歳年上の小柳真里さんのつとめる書店ではたらきたい、という願いなかなった職場。
ところが、願いは、そこまで。

現実の1日は、10時開店前に毎日おこなわれる店長の、長々とした朝礼からはじまります。
クソ忙しいときに、得意になって、人生訓などをたれおって。
まこと、なんて店長は、こうもバカなのだ。
バカだから店長になったのか、店長になったからバカになったのか。

そのおかげか、今日のはじまりも常連客の無謀な対応から、という毎日が天中殺な日々。
なんて世の中、うまくゆかないのか。

 



 

バカの連鎖

 

小さなトーク&サイン会の企画。
作家は、富田暁先生。
かつて大傑作をものにしたものの、そのあとは小ぶりになってしまった作家。
谷原京子の評価は、シンラツです。
その先生を、どう持ち上げたらいいのか。
ああ、小説家がバカすぎて。

書店経営は、今はきびしいの一言。
だれもが知っています。
知らないのは、書店をひきいる社長。
ああ、なんでこの社長は、バカすぎるのか。

書店には、雑誌販売のノルマが課せられます。
各書店員には、課せられた部数を、売らねばならない。
売れなければ、自腹で。
こんな理不尽を押しつける、バカな高飛車出版社

世に、バカのタネはつきない。

 



 

結局、だれが一番バカなのか

 

主人公、谷原京子の実家は、父親がひとりで小料理屋をいとなんでいます。
母親は、すでに他界。
京子は、家をでてひとりくらし。

ときどき、実家の店の手伝いをしつつ、タダ酒を飲みに帰っています。
というのも、つい好きな本を買ってしまうと、月末は食事にも事欠く生活だからです。

職場から離れ、客層もちがうそこは、隠れ家というか逃げ場にもなります。
つい、ぐちりたくもなります。
仕事のつらさは、どの世界も同じ、ということでしょうか。

こんな仕事、マジやめてやる
そして、今もカバンの中には、辞表がしのばせてあって。

ひとりで、ふっと飲みにくる石原恵奈子さんは、そんなグチを聞いてくれる貴重なお客さん。
普通の主婦
ところが、じつはとんでもない正体があったりして。

 



 

めぐり、めぐって

 

職場環境に、大いに不満があります。
自分の将来だって、不安です。
生活も、もちろん不安定きわまる。
欲しい本も好きに買えないし、買ってしまったら、たちまち生活がままならなくなる。
給料日前の数日、1日数百円で、どうすごせというのだ。
頼りになる上司はいないし、何せ店長バカすぎる。

でも、なぜやっていられるのだろう?
「私がこんなふうに日々の理不尽に耐えられるのは、当たり前だけど、幸せになりたいからだ

好きな本に囲まれ、好きな物語を好きな作家から受け取り、愛すべきお客様のもとへ大切にお届けする仕事。

その単純作業がなかなかうまくゆかず、イライラするばかりだけど、その根底は変わっていない。
理想と現実のはざま。
書店の内情を知る、とっておきの小説です。
と、同時に、どこの世界も同じなんだなあ、という普遍性。
それを演じるのは、バカ。

いや、だからイイこともあるよ。
きっとある。
あってほしい。

物語は、覆面作家、正体をあかさぬ大西賢也のトーク&サイン会の企画から変わりはじめます。
覆面作家なんだから、人前に出てくるわけないじゃん。
ところが、まったく予期せぬ展開がはじまってゆきます。

バカばっかりの世の中、救いもあるんだな。
バカなわたしにも、ジーンとくる1冊です。
ひごろ、バカにお悩みの方に、救いになるかも。

そういえば、ランニングバカ、というコトバもありますねえ。
バカにも、救いあれ。

 



 

 

たーさん
バカのタネ ここにも芽がでる 花が咲く

 

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