バスクル新宿、大崎梢著、つながり

今日の予定

 

予定をたてて行動する、というのが苦手です。
予定というのは、思いどおりにゆかないもの。
そんなスリコミが、でき上がっちゃっています。
小学校時代の、夏休みの予定表から。

トラウマ、といっていいんでしょうか。
いいえ、単なるナマケモノです。

でも、今日は何があるのか。
何をするのか。
そのくらいのものは、おおまかに定まっています。

仕事をもつ方は、いつもの仕事です。
買い物を考えている方は、買いもの行動です。

そんな風にして、ひとは日々をつむいでゆく。
これを「平凡」でいやだ、とごねられるのは、若者の特権でしょうか。

年とともに、波乱万丈は、やってられなくなります。
つつがなく、がいいんです。

日本の運行予定表、これはあきれるくらい、つつがない。

 



 

バスクル新宿

 

この書名をみて、ああ、アソコの物語ねとピンときました。
新宿駅横に、巨大バスターミナルができたというニュースを目にしました。
たしか「バスタ新宿

これをもじった題名ですね。
となると、そこの情景が浮かんできます。

観光バスには、すいぶんと久しく、乗っていません。
いえ、正式には、乗っています。

マラソンレース会場へ行き来するシャトルバスです。
でも、乗っている時間は、たかだか数分、数十分です。

わたしの久しいのは、遠くにむかう長距離バスです。

バスクル新宿には、たくさんの長距離バスが、出入りしてきます。
それこそ、日本全国から。
日本全国へ。

各地から、集まるバス。
各地へ、向かうバス。
そんなバスが一堂に集まる場所、バスクル新宿。

だったら、とうぜん、そこには別れがあるだろう。
出会いも、あるだろう。

読まずとも、内容がわかってしまう、本の題名です。
今日の予定」がわかっている、ような安心感。

それが、見事に、裏切られてゆきます。
予定通りじゃ、ぜんぜんない。

 



 

バスクル新宿へ

 

本書には、5つの物語が、あつめられています。
なので、5つの出会いや、お別れ、のはず。

第一話の主人公は、葉月(はづき)37歳。
23時30分、山形発、バスクル新宿行きの夜行バスに乗ります。
いまは、山形で、母親と2人くらし。

東京へは、かつて働いていた上司に会うためです。
どうやら、その上司が、仕事をやめるらしい。
それを、ねぎらいに上京。
ただ、会っていいものかどうか、まだ決めかねている。

不安な気持ちをのせて、バスを待つ間に、同乗する女性と話がはずむ。
ところが、その女性、休憩で立ち寄ったサービスエリアでいなくなる。
出発時間になるのに、もどってこない。

なのに、バスは何事もなかったように、目的地へと動きだしてしまう。
あれ、出会いや、別れの話じゃなくなっている。
急に、ミステリみたいな展開へ。

 



 

バスクル新宿から

 

第二話の主人公は、大学生の哲人(てつと)。
サークルのお金を持ちだしてしまったかもしれない同僚のゆくえをさがしにバスクル新宿へ。
ここから、同僚の出身地、四国へ向かうバスを見張っている。

別れ、とはちがう。
出会いを求めている、とはいっても、意味がちがう。

第三話の主人公は、修学旅行から帰ってきたばかりの高校生の絵美
家に、警察の2人連れがやってきて、旅行先の話を聞きたいという。

第四話の主人公は、結婚式で新潟にいった帰りの莉香(りか)。
バスクル新宿に向かうバスのなかで、とり調べがはじまり。

ああ、どれも別れや、出会いでじんわり、というのがない。
何があったんだ。

どの話も、別々のバスと、別々のひと。
それがなぜか、第五話で、不思議なつながりが生まれてくる。
うーん、こういう展開ってあり、という驚きです。

妙なつながりに、出会いや別れを忘れてしまいます。
いや、別れや出会いも、とうぜんでています。
なにしろ、長距離バスの物語。
ですが、別れや出会い以上のものが、展開。

 



 

一瞬をつなぐもの

 

別れがある。
そして、出会いがある。
人生の、つねなる定番。
人生とは、そういう積み重ね

そのド定番のひとつの聖地が、巨大バスターミナル

いつの間にか、発想が、型にはまってしまっていたようです。
人生って、そういうもんだ、なんて。

若さとの、別れがある。
そして、老いとの出会いがくる。
それが、人生

記録との、別れがくる。
そして、関門時間との出会いがくる。
それが、マラソン
(個人的実感)

笑ってないで、いずれ、だれもが通る道ですから。

と思っていたら、そういうものでもなさそうだよ、という世界の展開本でした。
ひとの物語は、別れと、出会いだけでは、語れない。
別れという一瞬だけではない。
出会いという一瞬だけではない。

新しい「つながり」がそれらを、つむいでゆく。
人生は、「別れ」や「出会い」という断片だけでは表現できないんだよ。
それをつなぐものがあるんだよ。
いつも、つながり。
つながりがつづいてゆくのが、人生。
それは、とどまることのない「流れ」を生んでゆきます。

わたしたちは、流れの中で、生きている。
そのなかに、別れがあり、出会いがある。
そんなことを考えさせてくれた本でした。

よい意味で、予想を裏切られた快感。
人生というのは「つながり」の連続。
つながりの波の中を、どう生きてゆこうか。