『あとを継ぐひと』田中兆子著。つながり

人間だけが、別格

 

地球上の生きもののなかで、人間生活だけが、激変しています。

10年前と、今の生活、ずいぶんとちがいます。
30年前と、今の生活、天と地ほどの差があります。

とくに現代社会の変化といったら、目まぐるしさだけでは語りつくせません。
新しい技術や制度の登場は、とてもついてはゆけません。
AIって、何ですか、 SUICAって、何ものですか。

3ヶ月前に手に入れた、あたらしいGPS腕時計
いまだに使えているのは、ストップウォッチ機能くらいです。

いちおうは所持しているスマホ
1日使用時間は、5分とか6分とか表示されます。
もっていても無駄じゃん、といわれています。

なんで、こんなに変化がはやいんでしょうか。

野生動物で、こんなにせわしない生活をしているのを見たことがありません。
人間がつくる環境変化の影響は、おおいに受けてはいますけど。

変化するんだったら、ちゃんと変化を伝えなさい。
つい、居直って、さけびたい心境です。

みなさん、ちゃんと変化に乗れているんでしょうか。

 



 

つなぎ方

 

毎日のように、変化を更新しつづける現代社会。
でも、おおくのひとは、それを受けいれ、ステップアップを欠かさない。
変化の恩恵を享受して、より上の生活へと、むかっている。

そう、思っていました。
うらやましい。
例外は、わたしと、ごく一部の変化についてゆけないヒトだけ。

ところで、今回の本には、それぞれの「継ぐ」くらしが描かれています。
6つの、短編。
6種類の、継ぎ方。
6つの、人生の断片。

共通してくるのは、どこか不器用なつなぎ目にふり回される生き方でしょうか。

時代は、どんどんと変わっていっています。
いっしょに、価値観や需要も、変わっていっています。
同じものが、同じように必要とされるわけではなくなった時代の悲哀。
そんな社会の、小さな一コマの再生。

 



 

『わが社のマニュアル』から

 

そのうちの、一編を紹介させていただきます。

27歳となった居カ内翼は、小さな文具事務用品を製造販売する会社に再就職します。
ある事故で心に傷をおい、電車に乗れなくなって前職をやめざるをえなかった結果です。

社員は、40名ほど。
主力商品は、チョークです。
あの、黒板に字をかくチョーク。

ここは、社員の7割が知的障碍者によってまわっている、ということをあとで知りました。

炭酸カルシウムに、ホタテ貝の微粉末を配合します。
それを練ったあと、チョーク状の形にのばし、裁断して乾燥させます。
さいごに、チョークの大きさにそろえたあと、箱詰めにしてゆきます。

翼は、この会社の事務をおもに担当します。
とはいえ、パソコン操作は苦手で、入力ミスもたびたび。

いっしょに作業をしてくれる部署には、伊藤さんがパソコンに向かっています。
40代で、化粧っけのない女性。
ちっとも、しゃべってくれない。
何かあると、ブタのぬいぐるみをかかえて、パッと席を立ってしまう。
しかし、パソコン作業は、緻密そのもの。
彼女も、知的障碍者枠の社員だとききました。

 



 

マニュアルがない

 

仕事を円滑にすすめるためには、マニュアルの活用は欠かせません。
いまは、トリセツというコトバも、はやっています。

ところが、この会社には、マニュアルのたぐいが見つからない。
ある日、翼は社長とこのことで話す機会をもちます。

社長は、こんなことを口にしました。
「まつこと」も大切だよ。

社長自身が、長い時間をかけて、社員から教えてもらったことだという。
この会社には、福祉を勉強した社員や、専門家は、ひとりもいない。
なので、知的障碍の病名や等級なんかも、把握できていない。
していることは、みんなと毎日、時間をかけて、いっしょに仕事をしているだけ。

こういうひと、とにはめない。
そのひとにあったやり方で、接しているだけ。
「でも、これって、ふつうの社会だって、まったく同じことだよね」。

笑顔をかわさないのを、冷たい関係、と決めつけるのはどうか。
そのひとにあったコミュニケーションの方法をみつければいいのだよ。
みる角度をかえると、思わぬ発見があるよ。

時間をかけて、自分なりに理解して、対応をまなんでゆく。
そういう、つながり方もあるんだよ。
人間同士の交わりに、マニュアルはないのさ。

 



 

とれも、だれも

 

あとをつがない息子
『後継ぎのいない理容店』

小さなお菓子製造業をついだ娘の顛末
『女社長の結婚』

都会から田舎の牧場ににげた息子
『親子三代』

オカマとしてもどった息子と、古い旅館のゆくすえ
『若女将になりたい』

会話のなかった父娘がであった場所
『サラリーマンの父と娘』

みんな、何かを継ぐ、という形でつながっていますが、別々の作品です。
しかも、ちゃんと継げない物語でしょうか。
不器用さをかかえた人生の断章。

バトンパス、というと日本人の御家芸のように語られることがあります。
足の遅さは、バトンパスの技術で挽回できる。
陸上競技では、そうささやかれていますが、実際のくらしのバトンパスは簡単じゃありません。

みんな、大変なんだぜ。
でもさ、捨てたもんじゃないさ。

そんな勇気をもらえる、素敵な短編集です。
理想をいえば、浜辺の木陰で読みたいな。

 



 

 

たーさん
ひとりじゃない そのことだけで がんばれる

 

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