いまさら、陰陽

陰が去ったら、陽がきますか？

東洋思想の根幹には、陰陽思想が根づいています。
もともとは、易学の中の教理だったようです。

万物は、相反する２つのものを内在しています。
この両者の均衡状態が、いまの状態をしめしているのですよ、というような教え。

積極的な方向を「陽」とします。
消極的な方向を「陰」とします。

ふーん、そうなんだ。
で、具体例を聞くと、ホントですかとちょっとあやしくなる。

陽の例
→男、日、春、明、奇数

陰の例
→女、月、秋、暗、偶数

いやあ、女性のほうが積極的でしょ、ダンゼン陽ではないですか。
チョー度の偶数のほうが、陽っぽくないですか。
チョーハン、コマそろいました。

ま、いまさら端々をとらえていうのも、芸がありません。
フランス語なんか、すべての名詞が男性名詞、女性名詞と別れているじゃないですか。
ここは、いにしえからの取り決めとしておくことにします。

人間万事塞翁が馬

いいこともあれば、そうじゃないこともある。
人生とは、そういうもんなんですよ。

むかし、中国の国境近くに、塞翁さんという老人が住んでいました。
ある日、大事に飼っていた馬がいなくなってしまいます。
肩を落としていると、その馬は、駿馬を連れて帰ってきたのです。

すばらしい馬を連れてきたなあ。
よろこんで息子がその駿馬に乗ると、落馬して大けがを負ってしまいます。

やがて戦争がはじまり、若者は戦場へとかり出されてゆきます。
しかし塞翁の息子は、ケガのために出征できなくなります。
戦場にいった若者は、次々に命を落としてゆきます。
塞翁の息子は、ケガのために命が助かりました。

福は、必ずしも福ならず。
禍は、必ずしも禍ならず。
塞翁さんの人生観だそうです。
まさに陰陽思想ソノママでしょうか。

人生は、まこと、あざなえる縄のごとし。

陰陽をまつ

世の中には、すべからく陰があり、陽があります。

陰にどう立ちむかってゆこうか。
陽をどう呼びこもうか。

ときには、その流れに身をまかせてゆく。
ときには、その流れにさからって、漕ぎ出してゆく。
そうやって、陰陽の流れに、櫓をさお差してゆく。

ダイジョーブ、陰がずっとつづくということはありませんから。
陰がつづけば、やがて陽が顔をだす。

イメージとすると、公園におかれたシーソーでしょうか。
地面についているほうが、陰。
高くにとどまっているほうが、陽。
シーソーは、ギッタンバッタン、のぼってくだって、役割をはたす。
下がっている側を持ちあげれば、たちまちのうちに上になるんです。

マラソンレースは、陰が多すぎませんか？

陰がきたら、つぎは陽。
単純に考えちゃうと、そうなります。
この教えにしたがうと、失敗レースの次は、快心の走りが待っています。

待っています。
そうなるハズです。
そうなって欲しい。
ところが、現実はどうでしょうか。
陰陰陰陰陰陰陰陰陰陰、といったいいくつの陰がつづくんじゃあー。

ことは、レースに限りません。
運がいいヒトには、運がつきまくります。
その一方で、不運な人生をずっと、ずっと、というのもなくはありません。

レミゼラブルの主人公、ジャンバルジャンなんて、どうでしょうか。
不運の連続。
文字通りの、レミゼラブル（不運な人々）。

そんな文学作品を出さなくても、いまの世の中自体が「陰」でしょうか。

陰陽は、傾きじゃない

世の中の多くのモノは、長さの不均衡なシーソー。
長いほうは、いつまでも地面についたまま。
短いほうは、いつまでも宙ぶらりん。
ハズレの多い人生を歩んでいると、陰陽思想も、ちゃんと受けとれなくなってしまいます。

でも、待ってください。

ぼくは、陰陽を、マイナス極、プラス極のようなイメージでとらえていました。
プラス側にいっているか、マイナス側にいっているか。
プラス側に傾いているか、マイナス側に傾いているか。
つまり、両者は、対局の存在だったのです。

ところが、この発想は、浅はかだったようです。

「陰と陽は回転している」
こっちのほうです。
傾きではありません。
方向でもありません。

陰はいつもとどまらずに回転していて、やがて陽に変化してゆく。
陽もやがては陰にかわってゆく。
この回転がスムースにゆくと、陰のうらに陽がみえてくる。
陰と陽は、いっしょに回転している。
陰のウラには、そのまま陽がはりついている。

万物は、流転しているのですから。

とらえ方がかわったら、何か変化が生じるでしょうか。
かわります、と考えたい。

走りも、かわってゆかないかな。
陰陽思想は、奥が深い。
そうでしょ、陰陽師さん？
（つづく）