ランチ酒 おかわり日和、原田ひ香著、今日のごほうび

犬森祥子「見守り屋」

 

この本の主人公は、30すぎ、いわゆるアラサー、犬森祥子
バツイチで、前の夫との間に、小3になった娘、明星(あかり)がいます。

前の夫は、半年ほど前に職場の後輩と結婚。
娘も手ばなさないために、なかなか娘にも会えない。

さみしい。
でも感傷にひたっているヒマはない。
働かなくては、きょうのくらしが成りたたない。

そこでついたのが、同郷の友人、元同級生の亀山太一のはじめた『中野お助け本舗』の手伝い。
基本、何でもうけおう便利屋

じっさいの業務は、夜間に依頼人の家におもむいて、一緒にすごす「見守り屋」稼業。
夜から朝まで、顧客の要望に応じて、寝ずの番をするというもの。

第一話は、ひとりくらしの老人宅へ夜間にうかがい、早朝受付の病院付き添いから、終わるまでのお世話というもの。
そういう仕事です。

 



 

あけたあとに

 

夜間の仕事。
基本、寝てはいけない、寝ずの番。
交代要員はいないから、連続勤務。
たとえば、第一話の通院の世話は、終わるまでの13時間の付き添い。

なんでもそうですが、夜勤明けのカラダはキツイ。
キツイけれど、たとえばそれはマラソンを走り終えたあとのキツさとは異質です。
どこかポカーンとなって、どこかハイテンションさが残る不思議な感覚。

しかも、見守り屋です。
職場はつねに、依頼人の家か、その関係場所。
毎回、ちがうところです。

きょうの仕事がおわった。
そこでまだ体力のある祥子におそってくるのは、おおいなる空腹感

近くにおいしいところはないか。
やがてランチタイム。
さがそうとすれば、いくつも穴場がでてきます。

そこでランチとともに味わうのが、一杯のアルコール。
今日は、ビール。
ここは、ワイン。
レモンハイ。
ハイボール。

夜だと、女ひとりでは勇気のいる店も、ランチなら気楽に一杯がたのしめるのも新しい発見。
さあ、ごくろうさま。
今日の、ごほうび。

 



 

大人のごほうび

 

最後にごほうびをもらったのは、いつですか?

自分のことを考えると、考えこんでしまいます。
そんなに、ごほうびの記憶はとんでいます。
そうか、大人になるってことは、ごほうびがなくなることなのかも。

小さいころは、ごほうびがありました。
1キロほど離れた、お肉屋さんや、魚屋さんへの買い物の手伝いをよくしました。

ある日、お肉屋さんをでるとき、店の中から丸々としたオバさんが一言。
「ほら、ボク、ごほうび」
そういって、揚げたての1枚のコロッケをもらった記憶。
わあ。
急に輝きだす瞬間。

大人になると、ごほうびがなくなる

いえ、義理人情のこの国には「お礼」の気持ちはあります。
ありがとう、という気持ちはたくさんあります。
ただ、やはり「お礼」です。

ですから、義理がたい方は、お礼に、お返しを添えてきます。
ちょっと、かたいかな。
それが、大人の世界なのかな。

 



 

生きることは、さみしい

 

犬森祥子の現実は、さみしい。
関わるひとも、どこかさみしい。

そもそも「見守り屋」という仕事自体、めぐまれたひとが依頼してくるものじゃありませんし。
めぐまれていたら、たのみません。

全10話。
10通りの、どこかに事情をかかえた依頼人の見守り。
年齢も、バラバラ。
うかがう場所も、バラバラ。
依頼の内容も、バラバラ。

共通するのは、欠けたものをもって生きているということ。
だから、見守りがほしい。

祥子だって、同じ。
娘にも、もっと会いたい、話をしたい。

欠けたものをもっている同士のつながり。
祥子と依頼人。
それが、少しずつ、まったくバラバラだった依頼人が、つながりはじめたりもしてくる。

さみしさが、少しずつ氷解するような本となっています。

ひとはいつも、どこかで、つながりを求める生き物なのかなあ。

 



 

そうか、ごほうび

 

ごほうび、素敵じゃん。

忘れていた、ごほうび。
大人になったら、こんどは、ごほうびは自分にあげよう。
ちょっとサミシイ発想かもしれませんが、それもアリかな。

自分への、ごほうび。

そう考えたら、気がつきました。
ボクの場合、週に2回ほど、仕事帰りに本屋に寄ります。
すてきな本との出会いを求めて。
気にいった本に出会えると、思わずニッコリ。
そうか、これは自分へのごほうびだったのかもしれない。

そう思うようになって、本屋さんに入るのが、また一段とワクワク。
今日は、どんなごほうびが待っているかな。

ごほうびが、人生をちょっとゼイタクな気分にさせてくれる。
ごほうびが、ちょっとヘコんだ気持ちをやわらげてくれる。

さあ、どんなごほうびをもらっていますか?

ゴールテープなんかも、とっておきのごほうびかもしれません。
といっても、ふつうの大会じゃ、先頭のランナーにしかゴールテープはないんだけどね。

 



 

たーさん
つらい日は 自分へごほうび 今日を生きる

 

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