夏目明日香、高2生
両親と、中2の妹とくらす、勉強どころか何の取り柄もない高校生。明日香の生まれる前に、兄がいたそうだが、おさなくして亡くなってしまって会うことはない。
両親は、何かにつけて、亡くなった兄と比較して、やさしくしてくれない。
勉強をする気はあっても、集中することができずに、いつもビリ組のひとり。
そのため希望の高校へもゆけず、遠くまでの電車通学。
そんな高校なのに、成績は最下位をあらそう一人。
定期試験が始まった。
やはり、ここは勉強しなくてはならない。
でも、つい本屋で時間つぶし。
そこで偶然手にしたのが、催眠の本。
もう、何でもいい、力が欲しい。
ワラにも、すがる思い炸裂。
そんな日の、帰りの電車の中、派手なケンカがはじまる。
だれも、おじけづいて、止めに入れない。
そこに、さえない中年のメガネのおっさんが割ってはいると、急にケンカの場が笑いに変わってしまう。
あれ、このおっさん、どこかで見た顔。
そうだ、催眠の本の中の著者の顔だ。
うさんくさそうで、すぐに本だなにもどしてしまった本だ。
もしかして、これは催眠で解決したのか。
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意を決しての弟子入り
何かをかえたい。
インターネットで、調べてみる。
あのおっさん、催眠の講座をひらいているらしい。
でも、受講できるようなお金はない。
期待されない子は、おこづかいさえ、親から満足にもらえていないのだから。
受講ではない、ここは弟子入りさせてもらおう。
おとずれた事務所は、しょっぱいオフィスビルの4階。
意を決してドアをあけると、あの全くオーラのないおっさんが顔を出してくる。
でも、どうしたことだろう、なぜか話が湧いてくる。
これまでの、つらい境遇、いまの葛藤。
これも、あのおっさんの何かの力なのか。
「いいですよ、ちょうど電話係をさがしていたところですし。
親には、帰りに自習室で勉強してくるっていっておいたらどうですか」
なぜか、自分の境遇まで受け入れてもらえたみたいな気分。
このときから、さえないおっさんは、師匠に変身してゆく。
といっても、指導を受けられるわけじゃない。
電話番をしながら、壁ごしに聞こえる師匠の話に耳をかたむけるくらい。
でも、耳学問っていうくらい。
少しづつ。じんわりと効いてくる。
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物語に入ってゆくこと
ひとつの物語がある。
そういえば、だれも、むかしは物語が好きだった。
親のかたる物語。
絵本や紙しばいの中の物語。
やがて、テレビやアニメのなかの物語。
物語があると、そこに入ってゆける。
そんな物語を、つくってみる。
たとえば、もよりの駅から自分の家までの道すじの物語。
最初に出会うのは、どんな建物だったっけ。
次の角をまがって、見えてくる風景は。
そしてはじまる坂道と塀の特徴。
家についたら、玄関の様子はどうなっているだろう。
そして靴をぬいで、上がってみえてくる光景。
ふだんは気にすることもない風景も、物語にすることで改めて色彩ゆたかに着色されてゆく。
そして、その物語の中に入ってゆける。
入ってゆくことで、ちょっと気持ちが変わってくる。
物語の力を、師匠さんは伝えてくれる。
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呼吸をみること
相手の呼吸をみつめる。
呼吸にあわせてみる。
さいしょは呼吸そのものにあわせようとして、苦しくなってしまった。
そこまで、あわせる必要はない。
呼吸のうごきににあわせるだけでいい。
むつかしい?
集中してゆくと、だんだんとわかってくる。
道具はいらない。
単純といえば、単純。
相手も、呼吸をしているんだ、ということを意識するだけ。
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かわってゆく世界の先で
物語と、呼吸。
小さな2つが、自分を少しずつかえてゆく。
あれほど教科書をひらけなかった自分が、電車の中で集中してページをめくる。
予習なんて、考えつかなかったことも、はじめるようになる。
あれほど運動オンチだった自分が、昼休みにバレーに加わる。
かわってゆくのは、自分だけじゃない。
まず、通学電車でいっしょの、やはりデキの悪い友だちがかわりだす。
彼氏にふりまわされていた友だちも、かわりはじめる。
万年出ると負けのすもう部の連中が、かわってゆく。
でも、すべてがうまくゆくわけじゃない。
みんなが、喜んでくれるわけじゃない。
あやしい活動をしていると問題視されて、退学をせまられてくる。
ますます遊んでばかりと、親からはさらに冷遇されてくる。
さて、夏目明日香の運命は、どうなってゆくのか。
ワクワクする展開が、この一冊につめこまれています(清流出版)。
そして、気がつきました。
明日香の行動は、マラソンにもつかえる。
そう、ランニングの秘訣が、ギュッとつまっていました。
(つづく)
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催眠に 夢中になって みる世界
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