あついひと
小さなアップダウンのつづく道。
前から、走ってくるひとがいます。
うん、うん、今はやりの逆走ですか。
やがて、視線があうと、大きな声で「あと300」
え?
「最後の関門だ、間に合うから、歩くなよ」
「お、おう」
「いいペースだから、歩くなよ」
「あ、ありがと」
逆走するその熱きひととハイタッチをかわすと、そうだな、いよいよ90キロの関門だな、と気がひきしまります。
すると、突然うしろから声が突きささります。
「そうそう、いい調子だ。それをくずすなよ」
あ、今度は、うしろから見てくれているんですね。
こちらは、ふり返る力はありませんから、右手をかるくあげてこたえます。
「いいよ、いいよ、でも歩くなよ」
うしろからの声は、いつまでも続きます。
もしかしたら、アナタは北海道の松岡修造さんですか?
おかげで、90キロ関門は、余裕(?)の、制限時間6分前に通過できました。
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閉門閉鎖まで、6分を残して、余裕の通過。イヤハヤ。
夕ぐれどきの、さみしさ
時刻は、刻々ときざまれてゆきます。
太陽が、ずいぶんと西に傾いてきました。
それでも、さえぎる雲も、さえぎる木立もないコースには、夏の日差しがまぶしくそそぎつづけます。
カラダの感覚は、もう、よくわかりません。
アタマは、ボーッとしています。
表現しようのない、疲労感。
それでも、走っている(つもり)。
この感覚がたまらなく好きです。
このために、ずっと走りつづけてきたんだよ、といいたくなるような、あやしい快感。
恍惚感ではないんですが、ただトボトボと走りつづけます。
もう、あとはゴールを目指すだけ。
ひと気のない道に、沿道から2人の声援。
「あれ、レースに出てませんでしたか?」
たしか、スタート地点で、お見かけしたようです。
「いやあ、リタイヤしちゃって、今度は応援です」
うーん、ありがとう。
思わぬ出会い方。
コース上の、ひとこと、ひとコマが、胸にきざまれてゆきます。
もうすぐ、町の中。
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泣きたくなるような感動的な夕暮れ時。
ゴールが視界に
ゴール会場からでしょう。
拡声器にのった、大きな声が届いてきました。
まだ、どの方向にあるのかはわかりません。
「さあ、あと5分を切ってきました」
カウントダウンが始まっている、のはわかります。
「あと200」
沿道の声に、まちなかのコースを左手におれると、突如として感動的な空間が視界に入る。
一直線にむかう道。
その先が、照明でキラキラと輝いています。
ああ、ようやくゴールが見えた。
ゴールの周辺では、たくさんの方が集まっています。
もちろん、こちらに注目。
日常では、まったく注目もされないわが人生にあって、この展開。
そのとき、ゴール会場に音楽がなり響いていることに気がつきました。
あれれ、この曲は、聞いたことがある。
も、もしかして、『サライ』ですか。
いまはテレビを見ない生活なのでわかりませんが、かつて24時間テレビのゴール会場で歌われていた曲じゃありませんか。
え、その再現ですか。
すると、足をひきずりながら入ってゆかないと、サマになりませんか。
ゴールテープを切ったら、倒れこむのを期待されてますか。
感動の涙が必要ですか。
いきなり、ココロが乱れて、思考停止になってゆきます。
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ついにゴールが視界に入ってきました。サライも聞こえます。
役者には、なりきれません
ははは。
ちょっと表情がかたいかな。
ゴール手前のコースは、手を挙げた応援者の列。
順番に、ハイタッチ。
そして、なんとか、ホントになんとか、ゴール。
ホッとして、立ちすくんでしまいます。
何とか、感動的なオッチャンを演じたい気持ちはありますが、シドロモドロ。
えへへ、と芸のない笑いばかり。
まだまだ、修行が足りませんねえ。
せめてポケットに『タラタラしてんじゃねえよ』くらいをしのばせておいて、モグモグ食べるくらいのパフォーマンスができたなら。
それとも、そんなことしてたら、タラタラ走ってんじゃねーよ、って石が飛んできてしまいますか。
13時間58分31秒のエンディング。
制限時間1分29秒前という、ねらっても無理なタイム。
いやはや、ギリギリの127,767歩の旅でした。
神経、疲れました。
マラソンとプロレス中継は、ちゃんと終わりどころがあるんですよ、なんてわけではありません。
うそいつわりなく、100%運がよかっただけでした。
そして、多くの方の情けが、地球よりも重かった。
心から、感謝します。
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ゴール後は、さっそく、会場の撤収作業が始められたようです。
![](https://hikyaku-bashiri.com/wp-content/uploads/2019/08/P1040198-1024x768.jpg)
急に、会場に夕闇が舞いおりてきました。
あぶないひとリスト
ゴールとともに、大きな花束をもった美女がやってきて、なんてことはありません。
近づいてきたのは、「救護」と書かれたビブスを着た方です。
「大丈夫ですか」
「ダイジョーブではありません、ボロボロです」
「歩けますか?」
「オナカすきました」
かみ合わない会話。
たしかゴール会場には、カレーライスがある、と聞いていました。
ノロノロと会場エイドまでゆくと、うーむ。
もう、片付けがはじまっています。
「おしまいですか?カレーはないんですか」
このあとアリーナ内で開かれる、後夜祭で食べられますよ、と。
また、おあずけですか。
アリーナでは、シャワーを浴びられたので、サッパリ気分で、後夜祭に遅れて参入。
真っ先に目指したものは、カレーライス。
疲れた空腹に、カレーライスは最高のごちそうとなりました。
ああ、おいしい。
ひと息ついた次は、やっぱ北海道です。
サーバーからついでいただいたヒエヒエの生ビール。
ゴクゴク。
うーん、オナカの中から、しみじみと生きかえってきました。
100キロコース392名出走、248名完走。
完走率63,2%だったそうです。
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アリーナで盛況だった後夜祭会場。レース以上の熱気でムンムン。
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そして、ここまで来たら、やっぱ最北端の宗谷岬に立たねば。翌日の光景。
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稚内市内に入って、真っ先に入ったところ。旅は地元の本屋さんから始まる。
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涙なし ゴールのわけは 脱水です
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