風向きの変化
「人の運なんて、いつまでも沈みっぱなしじゃないよ」
フランダースの犬で、ネロのお隣さんのヌレットおばさんのコトバです。
ありがとうパトラッシュ、ぼくはもう、十分満足だよ。
いえいえ、まだレースはフルをこえたばかりです。
迷子2号のおかげで、コースアウトから無事に復帰できました。
「ありがとう」
お礼をいって、ふたたびソレゾレの走りにもどります。
もどっています。
もどったハズでした。
ところが、不思議とペースが似通っているんですね。
いえ、どちらも、意図していなかったんですが。
しばらく走るうちに、そう気づいてきました。
しかも、あたりは漆黒につつまれています。
見あげれば星が輝いていますが、地表をてらすほどではありません。
都心をはなれ、街のあかりも落ちてきています。
レース心得に、こういう注意がありました。
女性の夜間ひとり走行は、極力さけましょう。
そう、迷子2号は、女性です。
しかも、とってもエレガントな女性です。
くわえて、走りもエレガントです。
なので「夜道だから、いっしょにゆきませんか」という声かけは躊躇していました。
それに、ボクの遅いペースに付き合わせられません。
しかるに、だんだんと同行意識をもっていただけたようです。
寒い夜中にかかわらずのチョー豪華な私設エイド、うれしいのひとこと。
いつの間にか、迷子2号と同じペースということに気がついてきました。
名称変更
ということで、夜道は、ゆるす範囲でご同行願います。
ゆるす範囲というのは、ボクがばてたら、同行できませんので、置いていってください。
この時点で、「迷子2号」は、改名します。
なにごともエレガントなので、その頭をとって、「エレン」さんと命名しました。
しばし、エレンさんとの夜道の同行ラン。
さきほどまでの、お先真っ暗状況が、ここで180度の大転換です。
「人の運なんて、いつまでも沈みっぱなしじゃないよ」
お互いめざすは、水戸城です。
エレンさんは、さながら女水戸黄門でしょうか。
ボクは、助さんには、なれない。
せめて、うっかり八兵衛でつかせてもらいます。
「奥州屋、オマエも悪やのう」
そんなことをのたまう悪代官には、なるまいぞ。
といって、ペチャクチャ話しかけても、失礼です。
エレンさんの後ろについて、お互い、しずかにすすみます。
エレンさんは、少しペースを落として、ボクにあわせてくれてるみたい。
エレンさんは、走りながらもちゃんとスマホを操作し、道筋やチェックポイントを確認。
ボクも、ようやくGoogleMapの使い方が、なじんできました。
なれてくると、こりゃ、文明の利器だなあ。
60キロ地点の第2エイド、こんな夜更けにありがとう。
いただいたカレーが、オナカにしみわたり、おいしかったです。
まっすぐ、くねくね
水戸街道は、現在は国道6号線として、仙台までのびています。
現代の国道を、水戸から東京まで走ってみると、ハテナと感じるかもしれません。
水戸と東京日本橋は、130キロも離れていないよ。
現在の国道事情は、なかなかすぐれものです。
まっすぐに、のびています。
道幅も、ひろい。
でも、わたしたちのたどるのは、江戸時代の水戸街道です。
水戸の藩士は、江戸街道とよんでいたようですが。
旧街道は、地形にすなおです。
山や谷にあわせて、クネクネ、まっすぐなところはないくらいです。
そのクネクネに沿って、家があり、宿場があります。
そして驚くべきは、現在の国道とのちがいです。
ほとんどの区間が、重ならないんじゃないか、というほど変わっています。
じっさいに、広い国道沿いを走ったのは、ごくごくわずかです。
国道に出たな。
そう思ったら、そこを横切って、向こうのせまい道へ入ってゆきます。
そして、そのわき道の奥に、チェックポイントが待っている。
むかしの宿場町の風情がのこっている。
そんな繰り返しです。
ですから、旧道には江戸の面影がたくさん。
レースの半分は夜道、というのが残念です。
コンビニの水分補給も、だんだんとホット系に変わってきました。
90キロの第3エイド、いやあ冷え込みますねえ。
くずれてきたオデンですが、おいしかったです。麺類は、もうありませんでした。
夜道ラン
わたくしは、夜に走るという習慣をもっていません。
キホン、朝です。
夕食後に走る、なんて、考えられません。
だから暗くなったから走りを中断。
なんてことをしていたら、水戸街道は走りきれません。
暗くなっても、走る。
夜中も、走る。
非日常の世界です。
ジョーシキのある方には、理解できない世界でしょう。
身につけるのは、ヘッドライト、反射板、背中のザックにキラキラ電球。
旧道は、人通りも途絶えています。
人家も、まばらです。
畑や、林のつづく道もあります。
キツネやムジナがでてきても、おかしくありません。
街路灯、どこにある。
足もとだけが、ライトで、照らされています。
そこを、テクテクと走りつづける。
おっとっと。
歩幅と、方向が、ビミョーにブレてきています。
午前3時をまわってから、でしょうか。
はい、半分、居眠りランです。
ヒトは、ねむりながらも、走れるもんなんですね。
足もとだけ見ると、酔っぱらい歩行です。
ふと気づくと、前をゆくカレンさんの足もとも、アッチこちら。
あとで聞いたら、やはり眠気でフラフラだったと。
こういうのは、伝染するんでしょうか。
夜があけて、ふたたび景色がたのしめるようになってきました。
日の出です、うれしいなあ。
つい、太陽と遊んでしまいます。
夜明け、そして日は高く
夜半から、冷え込みが強まってきました。
コンビニで少し休むと、出てからの寒さがいっそう身にしみます。
とくに、少しずつ闇がうすくなりかかる時間帯。
シンまで、冷えこんできます。
やがて日がのぼり、太陽光線の偉大さをあらためて感動で受けとめます。
不思議と、眠気も消えさってゆきます。
また、坂だ。
明るくなるにつれ、地形がはっきり読みとれるようになってきました。
水戸に近づくにつれ、のぼりとくだりがふえてきました。
あかるくなったから、エレンさんは、もう大丈夫。
マイペースで、先にいってもらいましょう。
ボクの遅いペースにあわせちゃ、失礼です。
ところが、ボクにあわせてくれています。
そして、走るというより、歩きのリズムなのに気がつきました。
じつは、部屋でドジって、足ユビを故障中なんだとか。
歩きはいいけど、走りは無理しないように、と言われているんだそうです。
だから、ボクのような遅いスピードに付き合えたんですね。
驚くべきは、レースの読みです。
「あとはもう、キロ10分でいっても、大丈夫ですよ」
そういって、さっさかと軽快歩行。
そして、1キロごとのラップが、きれいに10分をきざみます。
うーむ、ダダモノじゃない。
ボクは「飛脚は本当に走っていたのか?」という疑問ももっています。
ワラジで、厚底シューズみたいな、ピュンピュン走法はできません。
すぐにワラジ崩壊です。
もしかしたら、エレンさんのような、華麗な速歩き走法みたいなのだったかもしれない。
これは、競歩歩きともちがいます。
速歩き走法、バカにできませんよ。
ボクの走りよりも、はやい。
日はのぼり、水戸に入り、いよいよ水戸城へ突入です。
なんだか、終わってほしくない気分も芽生えています。
さいごのさいご、前をゆくエレンさんが振りむいてニッコリ。
「いっしょに、ゴールしましょう」
うーん、目頭がジーンと熱くなりました。
思い出深い、同時ゴール。
正式タイムは、24時間59分49秒の旅でした。
まさに、エレンさんのおかげです。
ちゃんと走れたランナーは、130キロでフィニッシュしていたようです。
ボクのGPS時計の計測は、134,9キロメートル。
どんだけ、余分に迷ったんだい。
エレンさん、キレイにラップを刻んで引っ張ってくれてます。
いくつの川と橋をこえたのか、もう数えきれません。
関東平野だからタイラ、という概念はまちがっていました。
そしていよいよ水戸市に入ってゆきます。
水戸街道、水戸では江戸街道とよばれる起点、エレンさんに撮ってもらいました。
江戸時代にはありえなかった階段をのぼって、いよいよ水戸城へ突入です。
ゴールが間近に、うれしさもあり、さみしさもあり。
水戸城は、小高い山の上にきづかれています。
さあ、いよいよ水戸城の門、ゴール地点です。
ゴール地点での記念写真、うれしかったです。
足もとは、ワラーチで軽快でした。
ついでだからと、プチ水戸城観光。
そしてゴール会場は、ほのぼの空間と化しています。
それから
レースは、日常にもどるまでがレース。
とくに長距離の場合、ふつうの生活にもどれるまでが、いがいに長い。
まずは、水戸城から水戸駅まで、1キロ弱の坂道をくだります。
荷物の運搬はありませんから、レースのまんまの格好です。
さぞや汗臭くて、まわりのメイワクオヂサンになっていることだろう。
それが、いがいにも感じません。
うん、これなら列車も平気じゃん。
まずは東京駅までもどり、さらにグンマーまで。
明るいうちに帰ることができました。
ところが、家の洗面所に入った瞬間、やっぱクサー。
いそいで、洗濯と入浴へ。
わたくし、決して冷やしません。
ヤケドのキズも、あたためる派です。
(その方が、はやく痛みがひいてなおるんですよ)
そして、カラダの疲労へのメンテナンス。
翌月曜日は、ふつうに仕事ですから。
麻杏薏甘湯と桂枝茯苓丸のセット処方。
レース日は、夕方と寝る前。
翌日から、4回。
このおかげか、月曜から、普通に業務はこなせています。
疲労回復セットは、水曜日には治癒で、休薬へ。
たのしい思い出がいっぱいとなった水戸街道ジャニーラン。
できすぎです。
でも、たまには、こんな思いをしてもいいよね。
水戸駅前には、やはり定番のお三方が「ひかえおろう」していました。
総勢15枚にのぼる旧水戸街道のコースマップです、これだけじゃ、たぶん行きつけませんでした。
こんなにも できすぎの旅ラン 感謝です
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