呼吸の変化
生物のくらし方の変貌は、水をとおしてながめてみますと、水中から、水ぎわへ、そして地上へとうつっています。
そのカギをにぎっているのは、呼吸の変化です。
水中でくらす生きものの例は、魚です。
水の中の酸素を利用して「水中呼吸」をしています。
エラをつかうので、「エラ呼吸」とよばれています。
水ぎわでくらす生きものの例は、カエルです。
両生類といわれています。
カエルは肺をもち、空気中の酸素を利用できる「肺呼吸」になりました。
ただし、利用法の効率からいうと、イマイチなところがあります。
そのため、大きな活動性は発揮しずらく、水ぎわでつましくくらしています。
陸上で自由にくらせるようになった生きものの例は、ヒトです。
なぜヒトは、陸上で自由にくらせるようになったのでしょうか。
魚やカエルから、「何か」が変化したからです。
この変化を「自覚」できるようになると、陸上での活動性がさらに拡大できる可能性を感じます。
そう、ランニングも、です。
咽頭呼吸
カエルは肺をもつことにより、空気中から酸素をとり入れられるようになりました。
ところが、ヒトのような呼吸はできません。
呼吸の仕方がちがうのです。
胸をつかう胸式呼吸ができません。
胸をひらくのに十分な背骨や肋骨ももちあわせていませんので。
腹式呼吸もできません。
肺の底でひろがる横隔膜ももっていませんから。
カエルの呼吸法は「咽頭呼吸」とよばれます。
口の奥を、咽頭といいます。
まず、アゴをひろげて、口の中にたくさんの空気をためます。
つまり、咽頭に空気をためる。
カエルは、ハナの穴をとじたり開いたりできます。
そこで、空気を咽頭にためこんだら、ハナの穴をとじる。
そこで咽頭をしぼめる力で、肺に空気を送りこみます。
ふくらんだ肺は、酸素をとり入れると、風船がしぼむようにちぢんでゆき、空気をはき出します。
この繰り返しで、カエルは呼吸をします。
これを「咽頭呼吸」といいます。
咽頭あなどるべからず
つまり、カエルの咽頭は、「ふいご」のような動きができるのです。
空気を吸いこんでためる。
吸いこみ口をとじる。
肺へ送りこむ。
こうしてカエルは、胸式呼吸でも腹式呼吸でもない呼吸法で、水辺でくらしています。
また、カエルの咽頭の下には、別室がつくられています。
咽頭の力で、この別室に空気を送りこむと、カエルのアゴが風船のようにプウーとふくらみます。
この「咽頭」ー「別室」の間に空気を往き来させて、カエルは音をだします。
つまり、カエルは、口から空気をはき出さないで、泣いています。
ヒトが口笛をふくのとは、ちがうシクミなんですね。
人間にも応用
特殊な人間の話になります。
小児麻痺にかかり、クビから下の神経に障害をうけますと、肋間筋や横隔膜の筋肉をつかえなくなります。
つまり、胸をひろげる胸式呼吸ができなくなります。
横隔膜をひろげる腹式呼吸ができなくなります。
まったくできなくなると人工呼吸器が必要ですが、小さな麻痺では、十分な息がすえない不十分な呼吸となります。
つまり、息が苦しい。
そこで口をひろげ、空気を口の中に入れたあと、アゴやベロをつかって、口の中の空気を飲みこむように肺に送りこめないか。
カエルの咽頭呼吸です。
この動きが習熟できると、1回に50mlくらいの空気を肺に送りこむことができるようになります。
これを10回から20回くりかえして、肺に十分な空気を送りこむ。
そして口まわりの緊張をほどいて、肺の空気をおし出す。
このようにすることで、日中の活動をささえたり、人工呼吸器に全面的にたよらない生活もできるようになります。
「舌咽頭呼吸法」といって、小児麻痺をもつ方が発見しました。
自分に向き合う生き方がうんだ、すばらしい報告です。
別名「カエル呼吸」とよばれます。
生物の変化の過程で、DNAにすりこまれた機能の再発見、再利用の特筆すべき一例じゃありませんか。
呼吸法の変化
わたしたちは、呼吸の仕方を教わってはいません、多分。
物心つく前からしているものに、あらためて着目なんかしなくても、とくに困らないからです。
教えるひともいません。
関心も、まあ、もたれませんし。
せいぜいが体育で、胸をひろげて深呼吸をする体操とか、オナカを意識した腹式呼吸を経験するかしないかでしょう。
それでも、成長とともに、だれもが胸式呼吸から腹式呼吸へとシフトしてゆき、そしてだれもが、呼吸なんかまったく気にせずくらしています。
一方、カラダが弱ってくると、呼吸法が進化の過程を逆もどりする光景を目のあたりにすることがあります。
「腹式呼吸」が、「胸式呼吸」にうつってゆきます。
やがて、肺の出入り口に近い肩周辺をつかった「肩呼吸」になってゆきます。
さらにカラダが弱ると、不完全な「咽頭呼吸」になってゆきます。
ただし、咽頭呼吸は、一般には「下顎呼吸」とよばれています。
もう十分な呼吸はむつかしい状態です。
いよいよ、の覚悟が必要となります。
進化の逆をなぞってゆくのです。
では、そうすると「腹式呼吸」が一番進化したしっかり呼吸なのでしょうか。
走るために、もう一歩先の呼吸法はないものか。
それは、飛脚棒をかついでみると、カラダが教えてきます。
以下、次号。
呼吸法 上から下へ 効率化
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