なくなってゆく前に
ゲタという、おそらくは日本独自のハキモノ。
それが、歴史から消えさろうとしています。
一番の原因は、愛用するヒトがいなくなっているから。
そして、つくれる職人が高齢化しているから。
くわえて、記憶に残すのがむつかしいから。
木もハナオも、やがては土に還ってしまいます。
ところで、ゲタの誕生は、いつのころでしょうか。
はっきりとした文献等は、ないようです。
中世くらい、からのようです。
少なくとも、縄文時代の貝塚からは、ゲタの痕跡は発見されていません。
なぜ、ゲタが作られたのでしょうか。
それは、荒れた土地をゆくのに、便利だったからという説があります。
たしかに、水たまりでも、濡れません。
ただ、この考えも、推測の域をこえていません。
もっと、カラダが求めたのかもしれません。
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マイ愛用ゲタ。大切な相棒です。
ゲタが当たり前だった時代
ゲタがひろく日本中に浸透したのは、おそらくは江戸時代と考えられています。
戦乱の世が、去りました。
くわえて、日本国内の行き来もさかんになってゆきます。
ゲタ文化も、徐々に広まっていったようです。
ゲタが当たり前に、庶民の生活にあった時代。
それは、明治につづき、大正、昭和の中ごろまでみられました。
昭和の中ごろまで、ゲタはどこにもありました。
「くつ屋さん」ではなく「ゲタ屋さん」と呼ばれていた時代です。
どんなくつ屋さんでも、一角はまぎれもなくゲタコーナーが占めていました。
わたしも、それを見てきた、ひとりの生き証人です。
やがてゲタにかわって伸びてきたのは、ゴム底のシューズです。
職人さんが木をけずり、歯を器用に組みあわせるゲタから、大量生産可能な、安価なゴム底シューズの台頭です。
ひとつの中心が「アキレス」でしょうか。
同時に、道は次々にアスファルト化されてゆきます。
駅が作られ、歩道橋が敷設されてゆきます。
ゲタだと、歩きにくい環境への変化もくわわりました。
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不便さのナゼ
ゲタは、いろんな不便さをもっています。
作るのも、大変です。
なにしろ、ワザが必要です。
単なる板だけならまだしも、そこに2本の歯を組みあわせるのです。
よっぽどの強度を保てないと、ゲタにはなりません。
おいそれと、素人が作れるモノではありません。
くわえて、はきこなすにも、ワザが求められます。
なにしろ、2本の歯で、体重を支えねばなりません。
バランスをくずせば、容易にコケます。
かんたんに、捻挫してしまいます。
それなのに、どの老若男女も、みな器用にゲタをはきこなしていました。
小さな女の子が、赤んぼうを背おって、ねんねこをはおり、ゲタをはいて子守をしていました。
お母さんは、台所の土間で、ゲタのまましゃがんで、かまどの火をおこしていました。
トイレは外便所が多かったのですが、ゲタのまま和式便所に入って、腰をおろして用をたしていました。
ボクは、ゲタをはいて、チャンバラごっこをしていました。
どれでも、一歩コケたら、一大事になりかねないシーンです。
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小さな実験
おもしろい試みをしたことがあります。
年をとって、腰のまがったおバーちゃんが、近所にいました。
ひとりくらし。
はなしをしているうちに、ゲタの話題になったことがあります。
そのおバーちゃんも、若いころはゲタをはいて、子守や水くみなどもしたということです。
「もう、ゲタは無理ですかね」
「ゲタかい、腰もまがっちゃったしね」
歩くときは、ヒザのうえに手をのせたり、ツエが必要です。
「でも、ちょっと試してみませんか」
手を貸しますから、ボクの家のゲタに足を入れてもらったのです。
「ああ、なつかしいなあ」
わたしは、アゼンとなりました。
オ、おバーさん、腰が立ってる。
マジックテープのクツだと、腰のおれた姿勢。
それが、ゲタに足を通したら、腰が伸びてしまったのです。
小マタで、ツカツカ歩く。
ボクの介助は、不要でした。
「ああ、昔とったきねづか」ね。
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ゲタが語りかけるもの
何事も、理屈はあとから加わるものです。
ゲタをはくと、カラダはどうなるのか。
1番の答えは、ゲタをはいてみることです。
ゲタに足をとおして、真っ先に感じるもの。
それは、ふだん感じない「不安定感」でしょうか。
気をつけないと、まちがいなく、コケます。
ふつうのクツなら、決しておこらない感覚です。
そして、そこから身を守ろうとする「緊張感」がうまれます。
コケないためには、どうしたらいいでしょうか。
ふつうに歩くためには、どこに力の配分をもってゆけばいいでしょうか。
ゲタで生じる緊張感は、どうしたら解きほぐせるでしょうか。
次から、次へと、疑問がわいてきます。
立つのに、歩くのに、こんなにアタマを使わなくてはならないのか。
そして、これらが解決したら、何かが変わってゆかないだろうか。
町から、ゲタ屋さんが消えようとしています。
グンマーの一番大きな町である高崎市内でも、知るお店はひとつのみです。
小さなゲタ専門店で、おばあさんがひとりで、商っています。
そこでゲタをたのみますと、自分の足にあわせたハナオの調整もしていただけます。
もちろん、歯がすり減ったりしたさいの修繕もうけおってもらえます。
松本マラソンで訪れたさい、松本市内にも、一軒のゲタ専門店をみつけました。
まだ、ゲタは、手に入ります。
ゲタの感覚を、一度味わってみるのも、おもしろいです。
(つづく)
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ゲタの気持ち良さは、ゲタをはいてみて体感できます。
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ゲタはいて すっと立ったよ おバーさん
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