出だし
何ごとも、出だしが肝心、ともいわれます。
スタートが順調なら、それだけで波にのれる。
いえ、波にのった気分にひたれる。
どうせ後半ヨレヨレは必然、せめて最初は幸せ気分にひたりたい。
岩手銀河100kmマラソン。
ここも、コロナの影響で、3年ぶりの開催となりました。
感慨深いものが、こみあげてきます。
ここにくるまでに、3年も年をとってきた、ということですから。
なので、よけいに出だしには、こだわりたい。
気持ちのいいスタートをきりたい。
そう意気込んで、午前2時半、北上駅前の宿を出ました。
アレレ。
雨じゃん。
東北の背骨、山の中も走るレースです。
山中では、天気はどうなるかわかりません。
しかも梅雨シーズンの幕開けですから、とうぜん雨の覚悟はできています。
しかし、走りはじめれば、汗もかきます。
走行中の雨ならほんのシャワー、のつもりでいました。
まさか、宿からふられるとは。
まったく予期していませんでしたから、ちょっと動揺が。
もちろん、カサは持ってきていましたが。
きょうは、こんな天気なんでしたっけ?
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今回は、山の中の雨冷えも想定して、ワラーチに長ズボンという装束で参戦へ。普段と同じじゃん。
北上公園陸上競技場
北上市には、大きな湖もうかぶ広大な公園があります。その中の一角にある陸上競技施設。
スタート会場となる場所です。
岩手銀河100kmラマラソンは、ここを出ると北上して、一路雫石へとむかうワンウエイコースです。
北上駅前からのシャトルバスで会場着。
雨は、ザーザーから、ポツリポツリへ。
ここの受付で、GMCゼッケンをいただきます。
GMC。
ギャラクシー・マスターズ・クラブの略号とか。
ここの100キロコースを5回完走すると入会させていただけるそうです。
前回に、その5回目を、すべて13時間台で完走。
そうです、タイムはともあれ、入会資格は完了。
わたくしも、はれてGMCの末席に入れていただきました。
すると、マイ個人番号がいただけるんです。
つまりは、永久欠番ですか。
え、欠番?
意味は、ちがうかも。
あわせて、GMCの記念シャツまでいただきました。
そんな、はれあるゼッケンを身につけ、走りの準備にとりかかります。
このレースは、中間点、正式には6キロ地点に、ドロップバック制度があります。
つまり、自分の荷物をあずけておいて、補給もできる。
久しぶりにきく制度です。
この3年間に、ドロップバック制度は、コロナ対策という名目で、みな中止されていましたから。
必要なものは、最初からもって走る。
この方法に慣れちゃったものですから、今回は、ドロップバックはパス。
これまで、ワラジの換えも、ここに用意していました。
でも今回は、ゴム底ワラーチなので、その心配もなし。
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このような素敵なGMCシャツまでいただきました。
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ズラリとそろったランナー集団、もうすぐ夜も明けてきます。
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小雨模様もナンのその。いざ出陣。
さあ、スタート
午前4時。
足もとが、しっかり見えてくる時間。
いっせいにスタートです。
最初は、距離調節のためなのでしょう。
スタート地点を、ぐるぐる回っている感じに。
似たような景色なので、何周しているのか、よくわかりません。
数キロ走ると、いよいよ公園から離れて、一般道へとび出します。
そのときです。
ポツリポツリの雨粒が、堰を切ったように落ちてきました。
はるさめじゃ、食べてゆこう、なんてもんじゃありません。
シャワー全開にじても、ここまでの水流はだせません、というレベルです。
あわてて、無人の納屋の軒先をお借りして、背中のバッグからウインドブレーカーをとり出します。
手は手首まで、胴体は腰までおおってくれる、ちゃんとした雨具。
せめて、装備はしっかりさせておきたい。
足もとはやむなし。
といいながら、今回は雨と冷えを想定して、下は短パンでなく長ズボンにしておきました。
富士五胡ウルトラは、寒さにやられましたので。
オヂサンは、寒さに弱い。
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明るくなった北上運動公園内をグルグル、ウオーミングアップ気分。
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一般道へとび出すとすぐに、何やらあやしい黒雲が覆ってきました。
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で、やってきた突然の土砂降り、いやはやの展開です。
雨の慕情
にしても、なんという降りでしょう。記録的短時間集中豪雨なんてコトバが、アタマをよぎります。
いや、まだスタートしたばかり。
まわりは、開けた水田地帯。
だから、大ジョーブです。
ただ、これが山中まで続いたらどうなるか。
通行止め、レース中止もありうるだろう。
そんな不安が、浮かんできます。
不安とともに、おそってくるのは、寒さです。
まだ、カラダだって、十分にあたたまっていたわけではありません。
くわえて、雨粒が、やけに冷えています。
それが、周囲の空気も冷やす。
そんな中、ランパン、ランシャツだけのランナーも見受けられます。
もう、肌にペッタリ。
うーん、低体温症が心配です。
「大丈夫ですか」と声をかけたって、解決策はありません。
その前に、声さえ消されてしまう雨音。
みな、黙々と走りつづけています。
たしかに、歩いたら、冷えきってアウトです。
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ザーザー降りの中のラン、寒さがつのります。
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もー、いいんだ、もういいんだ、どーにでもなれ。
光明
やまない雨はない。
雨がやまずに、地球が水没してゆく小説がありましたが、ここは現実世界。
雨だと思っているから、つらいんだ。
いっそ、滝だと思いなおそう。
そう、いましているのは、滝行なんだ。
って、なんで岩手まできて、修行をしなくちゃいけないの。
そりゃ、殺生ばかりの毎日ですけど。
「お水をどうぞ」
「いえ、もう十分あびてますから」
せっかくのエイドに着いても、漫才みたいな会話になってしまいます。
わたしたちは、好きで雨ん中、走ってるモノです。
それを立ったまま付き合ってくださるエイドのみなさん、ありがとうございます。
どのくらい、走ったでしょうか。
寒いなあ、という思いは変わらないまま、それでも小降りになってきました。
その間の記憶は、あまりなし。
林の中。
小さな橋。
ゆるいのぼり、そして下り。
カーブ。
無心、というより、ボオッとしたまま、時間がすぎてゆきます。
すると、前方に明かるい兆候が見えてきました。
わたしの人生の前方には見えませんが、この走りの先にはかすかな明るさが。
ゆくぞ、明るさを求めて。
(つづく)
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やまない雨はない、終わらない坂はない、ゴールのないレースはない。
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雨があがったら、次はコレかい。しばらく同伴した関西オヂサンと。
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いよいよ、銀河なめとこラインに入ってゆきます、つまり峠道へ。
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坂の前で応援してくださる御一行さん、お陰で太陽が出てきました。
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