アリエナサ、という醍醐味
事実は小説よりも奇なり、なんていわれます。
たしかに、毎日流れてくるこの世の中のできごとや、さまざまなニュース。
こんなのアリエナイでしょ、と突っこみたくなるものばかりです。
人間の不可解さ、ゆえの諸行無常のなせる結果でしょうか。
アリエナサ、の先に待っているものは、事態の不透明さです。
これからどうなってゆくのか、とんと見当もつかない。
そこに、不安や、やり場のなさを感じることもあります。
でも逆に、だからこそ、ゆく先をたのしんじゃおう、というのもアリかもしれません。
はじめてのマラソン大会のコースを走ってゆくときのワクワク感みたいな。
小説の中にも、こんな「アリエナサ」から入ってゆくジャンルがあります。
ファンタジー小説、などもここに含めていいでしょうか。
今回の小説は、そんな「アリエナサ」から始まってゆきます。
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取締役、というアリエナサ
河野ささら、23歳。
地下アイドルグループ『ハリキリ・セブンティーン』のメンバーのひとり。
地下、なんていうくらいですから、まったくのマイナーです。
ぜんぜん、売れていない。
今日も、小さな会場での握手会。
そこで傷害事件が勃発し、メンバーのひとりが障害を負ってしまいます。
そのため、活動停止に。
これから、どうしていったらいい?
何ができるのっていうの?
そんなとき、マネージャーから、アリエナイ話が転がりこみます。
以前、ちいさなテレビ番組で受けたインタビュー。
それを、たまたま見ていたのが石垣忠則。
社員1万人をかかえる、レトロフューチュリア社の社長。
おお、あのキッパリとした物言い。
これからは、わが社にもそういう「ナウいヤング」の意見もとり入れてゆきたい。
そう思うと、ささらを、いきなり社外取締役に大抜擢、という決断。
大企業にあっても、創業家2代目の独断が通用する会社。
さすがに、浪花のジョブズを自認し、海外の成長会社はみな独裁者の業績と豪語する御仁。
そのために、年棒として1億円を用意しよう。
アリエナイ。
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1兆円のアリエナサ
石垣忠則は、取締役会で、ささらの取締役就任を報告します。
同時に、自分は会長にしりぞき、社長の座を息子の忠介にゆずる発表をします。
操業家の3代目となる忠介新社長は、はりきる。
まず、年間目標の策定だ。
おおきな目標が、会社を飛躍に導いてゆく。
社員1万人をかかえる大会社の、昨年度の売り上げは、1千億円。
これを超えなくてどうする。
よおし、ならば今年度は、1兆円をめざそう。
2倍とか、10%アップなんて、ケチな考えでどうする。
一気に10倍アップをめざせ。
根拠もヘッタクレもない、単なる思いつき。
しかも、これが実現すれば、世界からも注目される存在になれるじゃないか。
なにしろ、新社長の発想回路は、ふつうとはちがう。
「10倍にできるか」を社員に聞く必要はない。
「10倍にしろ」といったら、10倍にするために知恵を絞るのが社員の義務だ。
アリエナイ。
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ここからは、アリエル
アリエナイ、が回りはじめる。
そうです、無茶という輪が、グルグルと回転をはじめる。
どのように回りはじめたか。
いや、そんな簡単に回りませんよ、いくら小説だといっても。
回るより先に、キシミが生じてきてしまいました。
ミシミシ。
どこから、聞こえてくるのだろう。
まずは、研究開発部門から、出てきたようです。
ほら、成果10倍に向けて、こんな成果が出てきましたよ。
見てください、うちらの実力。
しかし、よくよくみれば、アリエナイ計算になっています。
粉飾決算が、歩き出してきました。
しかも、ハンパない額の不正。ここをキッカケに、レトロフューチュリア社は、坂道をころげ落ちるように傾きはじめます。
マスコミも、嗅ぎつけてきました。
最後には資産がこげつき、ついにライバル社への吸収合併の道へ。
対応しきれない新社長は、逃げの一手です。
そこで出した最後の手段は、自身の退任。
新しい社長は、河野ささらにまかせる、と。
元アイドルを隠蓑にして逃げおおせよう。
よくある手かな。
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新しい道
吸収合併というのは、実は表向きの表現です。
少しずつ解体をすすめ、多くの社員は解雇の道がまっています。
社長となったささらにしたって、同じ道があるだけです。
さて、どうしたものか。
これまでの23年間という人生。
アイドル業界にあこがれて入るも、翻弄されて中断。
大会社に入れたが、ここでも同じように、翻弄されてやがては首をきられる。
ならば、次からは、自分の足で一歩をふみだせないものか。
幸いにも、取締役としての一時金は手にすることができる。
そうだ、新しく起業だ。
まずは、その名前をどうしようか。
「駄沙未来」。
そして起業したのだから、立場はこれ。
代表取締役。
いえ、べつに起業しよう、独立しよう、という誘いではありません。
自分の足で、きちんと地面をふむこと。
自分の考えで、行動をおこしてゆくこと。
それが、アリエナサのあふれ返る現実社会の中で、まっとうに生きるコツなのかな。
走りにしたってね。
自分で考えて、自分のために走ってゆきたいです。
コロナという、降って湧いたアリエナイやつに対してのスタンスもね。
気分がスカッとする本です。
すてきな人生の、手引書(笑)。
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