手のひらは太陽

手の創造

29個の骨をしきつめます。

１番線から５番線までのコースを「腱」でつなげます。
根元は、横同士も「腱」で編みこみます。
タテの糸は５本、ヨコの糸もあるよ、と名曲「糸」を口ずさんでおきます。

それぞれの「腱」に、適度の「筋肉」をまぶすと、手のできあがり。

というふうに、神サマは、手を創造なすったのか。
神サマの意図は、不明です。
ただ手をじっと眺めていると、手のひらの東京駅ホームから、５つの方向へとのびてゆく線路、みたいな感じになりませんか。

ひとつのホームから、５つの方向へとのびてゆくユビ。
しかも、１本１本は、けっこうな長さがあります。
構造からも、手の自由さを感じとれます。

手の働き

いろんな使い道があるな、と思わずにはいられない手。
今日は、どんなことに使いましたか。
何にでも使いようがある、まさに万能選手です。

ハシをもって、ご飯をつまむ。
お茶わんをもつ。
背中をポリポリとかく。
服をきる。
ボタンをはめる。
手を洗う。
ペンをもって、字をはしらせる。
草をむしりとる。
ピアノの鍵盤をおす。
草かきをふるう。
カバンを下げる。
つり革をにぎる。
手をふる。
キィボードをたたく。
スマホ画面をなぞる。

きりがありません。
おヒマなとき、だれかさんと「手のやっていること」を順番にあげてゆく遊びはどうでしょうか。
相当な時間をつぶせます。

所属部署

いろんな働きができる手。
さて、それでは「手」クンは、どんな部署に配属したらよろしいでしょうか。

胃や腸は、消化吸収をになっているので、消化器科にいます。
心臓や大動脈は、血液循環をになっているので、循環器科にいます。
肺や気管は、吸ってはいての呼吸をになっているので、呼吸器科です。
脳ミソや脊髄は、情報の伝達をになっていて、脳神経科と名のっています。
目玉や耳は、情報の入り口として働いていて、感覚器科です。

えーと、手は動くところ。
動くというと、もうひとつの似た者は、足です。
おもに動作をになう。
動作を、なんとか無理すれば、運動ということも可能です。

ということから、でしょうか。
手や足は「運動器科」に配属されることになりました。
お手軽に、運動器とよばれています。

これからは、運動器が表舞台

運動器クン、今までも大切な働きをになっていました。
なくてはならない存在です。

だって、手も足も自由さが失われてしまったら、どうでしょう。
それこそ、手も足もでない。

とはいえ、カラダの中で、どれほど注目されていたでしょうか。
たまには、みんなの前で、センターに立っていたでしょうか。
いいえ、けっして目立つ存在ではありませんでした。

なにしろ、循環器が、呼吸器が、ひとたび人気を落とせば、みるみる命にかかわる大事態になるのですから。
しかし、循環器や呼吸器とくらべてどうする。

運動器には、運動器としての、独自の道があっていいじゃないか。
そう、アイドル界の、ももクロ路線です。

そういって、旗を立ちあげたのは、日本整形外科学会というファン組織、いえ、学術団体です。
ときに、2007年。
これから、運動器症候群を広めてゆくぞ。

ロコモの時代へ

運動器を、略して「ロコモ」とよぼう。

その前に、代謝を「メタボ」と名づけた団体がありました。
メタボは、デビューすると、またたく間に注目を集めてゆきました。
やがてメタボ旋風が吹きはじめます。
今や、中高年検診では、該当者多数、という安定的人気を博しています。
紅白連続出場、という実績もダテではありません。

その二番煎じを狙った、のかどうか当事者ではありませんのでわかりません。

足腰が弱まって、動くに動けなくなってしまうのを「ロコモーティブ・シンドローム」とよぼう。
略して、ロコモだ。
なにしろ、要介護になる１番の原因は、ロコモなんだから。
よし、ロコモを売りだすぞ。

で、ロコモくん、どこまで人気を博してきましたか。
今日の予定は、入っていますか。

ところで、神サマは、手を本当に運動器として創られたのでしょうか。
運動器科の配属で、よかったのでしょうか。
そりゃ、循環器じゃないし、呼吸器でもないし、消化器でもありません。

運動器のチューンナップ方法は、運動。
はい、イチにー、イチにー。
手足に寄せられる期待は、運動すること。
おこたると、ロコモになるよお。

あれ、カラダの他の部署で、運動を科せられているところは他に、ありましたっけ？

なんで、運動器科だけ、運動なんでしょうか。
まるで宿題。
運動器科だけ、宿題が出される。
宿題の内容は、筋トレ。
運動って名前がついてしまった宿命でしょうか。
運動忘れると、大変なことになるんでしょうか。

だって、循環器科は、運動をおこたると心不全おこしましたっけ。
呼吸器科は、運動をおこたると呼吸不全になりましたっけ。

おかしいなあ、と思いませんか。

となると、運動器っていう命名に、無理はありませんか。
手は、何のために使っていますか。
そして、足も。
（つづく）